19人殺害事件 裁判は匿名審理
01月05日 18時40分
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200105/1000042218.html
相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害されるなどした事件で、29歳の元職員の裁判員裁判が今月8日から横浜地方裁判所で始まります。
法廷で被害者は1人を除いて「甲A」などと呼ばれ、名前など個人が特定される情報は伏せて匿名で審理が行われる見通しです。
平成28年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々と刃物で刺され19人が殺害されたほか、職員を含む26人がけがをするなどした事件では、施設の元職員、植松聖被告(29)が殺人などの罪に問われています。
裁判では被告に事件当時刑事責任能力があったかどうかが争点です。
この事件の裁判員裁判が今月8日から始まりますが、関係者によりますと被害者は大けがをした尾野一矢さん(46)を除いて名前など個人が特定される情報は伏せて匿名で審理が行われる見通しです。
具体的には殺害された19人は「甲A」などと、けがをした人や被害にあった職員は「乙A」「丙A」などと呼ばれる見通しだということです。
また、傍聴席に座る被害者や遺族などがほかの傍聴者から見えないように、裁判所が傍聴席の一部に遮蔽板を設置する異例の対応を取ることを決めています。
裁判所が遺族や被害者などの心情に配慮した結果、こうした対応を取るものとみられます。
事件後、警察は「家族の意向」などとして亡くなった全員を匿名で発表しました。
これまでの取材の中で、一部の遺族がその理由や思いを伝えてくれました。
事件で26歳の娘を亡くした母親は、「事故や災害であれば名前を出したと思いますが、このような形で娘を奪われてしまったことがあまりにつらく伝えられずにいます」と話していました。
55歳の男性の家族は、事件後、周囲から心ないことばをかけられたことを明かし、「匿名を希望したのは、さらに差別を受けるのではないかと怖かったからです」と話していました。
65歳の女性の弟は「障害のある姉を恥ずかしいとか知られたくないと思ったことはなく、当初、匿名を希望する人がいると聞いたとき『なぜ?』と思いました。けれども私自身も家族に障害者がいることで差別を受ける現実があることは知っています。各家庭でご事情があるのは察することができたので匿名に同意しました」と手記で記しています。
また、犠牲となった男性の親は、NHKの取材に対し匿名を望む理由として、「生きていた証は家族や近しい人がよく分かっています。生きている時に、生きている証を健常者の人たちに知らせてほしいし、これから生きていく人々が生きやすいよう支援したり、報道したりしてほしい」ということばを寄せています。
今回の裁判でただ1人、実名での審理の見通しとなっているのが、のどや腹などを刺され、一時、意識不明となった尾野一矢さん(46)です。
両親の剛志さん、チキ子さんは、「意思疎通のできない人間は生きる価値がない」などという被告の一方的で差別的な主張だけが広がることを懸念し、事件の直後から名前と顔を出して一矢さんが生きる姿と家族の思いを伝えてきました。
剛志さんは講演などで、「障害を理由に匿名にした時点で差別をしたのと同じです」と訴えてきた一方で、障害に対する差別や偏見が残る今の社会では実名で語ることができない人もいるとして、遺族一人ひとりの判断が尊重されるべきだとも考えています。
事件で心身ともに深い傷を負った一矢さんですが、両親や周囲の人たちが支え続けてきた中で次第に笑顔やことばを取り戻し、以前にも増して自分の意思を伝えるようになってきたといいます。
いまは長年暮らした施設を出て、介助者に付き添われながら地域で暮らすことを目指していて、両親は意思を示し始めた一矢さんの姿が被告の主張にあらがっているようだと感じています。
剛志さんは裁判で「被告には『誰もが命の重さは同じだ』ということを理解してもらいたい。そして法廷で“いま君は幸せか”ということを問いたい。犠牲になった19人、名前も顔も出せずにいる遺族や被害者の分も、尾野一矢の父親として名前を出して裁判にのぞみたい」と話しています。
01月05日 18時40分
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200105/1000042218.html
相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害されるなどした事件で、29歳の元職員の裁判員裁判が今月8日から横浜地方裁判所で始まります。
法廷で被害者は1人を除いて「甲A」などと呼ばれ、名前など個人が特定される情報は伏せて匿名で審理が行われる見通しです。
平成28年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々と刃物で刺され19人が殺害されたほか、職員を含む26人がけがをするなどした事件では、施設の元職員、植松聖被告(29)が殺人などの罪に問われています。
裁判では被告に事件当時刑事責任能力があったかどうかが争点です。
この事件の裁判員裁判が今月8日から始まりますが、関係者によりますと被害者は大けがをした尾野一矢さん(46)を除いて名前など個人が特定される情報は伏せて匿名で審理が行われる見通しです。
具体的には殺害された19人は「甲A」などと、けがをした人や被害にあった職員は「乙A」「丙A」などと呼ばれる見通しだということです。
また、傍聴席に座る被害者や遺族などがほかの傍聴者から見えないように、裁判所が傍聴席の一部に遮蔽板を設置する異例の対応を取ることを決めています。
裁判所が遺族や被害者などの心情に配慮した結果、こうした対応を取るものとみられます。
事件後、警察は「家族の意向」などとして亡くなった全員を匿名で発表しました。
これまでの取材の中で、一部の遺族がその理由や思いを伝えてくれました。
事件で26歳の娘を亡くした母親は、「事故や災害であれば名前を出したと思いますが、このような形で娘を奪われてしまったことがあまりにつらく伝えられずにいます」と話していました。
55歳の男性の家族は、事件後、周囲から心ないことばをかけられたことを明かし、「匿名を希望したのは、さらに差別を受けるのではないかと怖かったからです」と話していました。
65歳の女性の弟は「障害のある姉を恥ずかしいとか知られたくないと思ったことはなく、当初、匿名を希望する人がいると聞いたとき『なぜ?』と思いました。けれども私自身も家族に障害者がいることで差別を受ける現実があることは知っています。各家庭でご事情があるのは察することができたので匿名に同意しました」と手記で記しています。
また、犠牲となった男性の親は、NHKの取材に対し匿名を望む理由として、「生きていた証は家族や近しい人がよく分かっています。生きている時に、生きている証を健常者の人たちに知らせてほしいし、これから生きていく人々が生きやすいよう支援したり、報道したりしてほしい」ということばを寄せています。
今回の裁判でただ1人、実名での審理の見通しとなっているのが、のどや腹などを刺され、一時、意識不明となった尾野一矢さん(46)です。
両親の剛志さん、チキ子さんは、「意思疎通のできない人間は生きる価値がない」などという被告の一方的で差別的な主張だけが広がることを懸念し、事件の直後から名前と顔を出して一矢さんが生きる姿と家族の思いを伝えてきました。
剛志さんは講演などで、「障害を理由に匿名にした時点で差別をしたのと同じです」と訴えてきた一方で、障害に対する差別や偏見が残る今の社会では実名で語ることができない人もいるとして、遺族一人ひとりの判断が尊重されるべきだとも考えています。
事件で心身ともに深い傷を負った一矢さんですが、両親や周囲の人たちが支え続けてきた中で次第に笑顔やことばを取り戻し、以前にも増して自分の意思を伝えるようになってきたといいます。
いまは長年暮らした施設を出て、介助者に付き添われながら地域で暮らすことを目指していて、両親は意思を示し始めた一矢さんの姿が被告の主張にあらがっているようだと感じています。
剛志さんは裁判で「被告には『誰もが命の重さは同じだ』ということを理解してもらいたい。そして法廷で“いま君は幸せか”ということを問いたい。犠牲になった19人、名前も顔も出せずにいる遺族や被害者の分も、尾野一矢の父親として名前を出して裁判にのぞみたい」と話しています。