<311メディアネット>静岡新聞 遠州灘に防潮堤、国内最大規模
2020年3月17日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/202003/CK2020031702000181.html
全長約17.5キロの完成を間近に控えた防潮堤について説明する田口さん=浜松市南区で
「最初に聞いた時、『神様、仏様だ』と思った」。浜松市自治会連合会長の田口博さん(70)はそう振り返る。二〇一二年、地元創業の住宅メーカーが防潮堤整備のため三百億円の寄付を申し出た。最大級のレベル2地震動(大規模地震)が発生すると、三〜五分で津波が到達し、一万六千人以上が犠牲になると想定された同市。「防潮堤ができれば逃げる時間が稼げる。でもそんな金はないと思っていた」
自動車や楽器の製造で知られる政令指定都市。南部は遠浅の遠州灘に面し、約十七キロにわたって標高六〜一〇メートルの砂丘が続く。レベル2の大地震に伴い最大約一五メートルの津波が砂丘を越え、最大四キロ内陸まで浸水する可能性が指摘され、市民の不安はいや応なしに高まった。
住宅メーカーの多額の寄付を機に、他の企業や市民から十三億六千万円余りの浄財が寄せられた。さらに市と県が計十七億円を上乗せして、工事は一三年に始まった。天竜川から浜名湖までの東西一七・五キロに連なる海抜十三〜十五メートルの巨大な堤は、三月にいよいよ完成する。
ただ、その日が近づくにつれて田口さんは市民の防災意識が下がってきてはいないかと危ぶむようになった。「3・11の直後は、自転車で避難できる時間と距離を測ったり、夜間の避難訓練をしたりしたが、最近は訓練がマンネリ化し、住民の参加率も低くなった」
震災後、沿岸部からは次々に住民が離れていったが、最近は新築住宅が増えている。少しずつ活気を取り戻している。それはそれで喜ばしいことだが、
「防潮堤ができたから絶対に安全ということはない。防災の本質は生きるために何をすべきか一人一人が考えること」と田口さんは訴える。特に地域の未来を担う若い世代を巻き込んだ防災の大切さを強調する。
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浜松市の遠州灘沿岸の防潮堤は、土砂とセメントを混ぜた素材「CSG」を基礎に用いた全国的に珍しい構造で、国内最大規模。斜面にはクロマツなど三十二万本を植栽する。レベル2津波の宅地浸水面積を約八割、宅地浸水深二メートル以上の範囲を98%低減できるという。
<記者の視点> 津波のリスクで浜松市の沿岸部は地価が下落し、人口流出が一気に進んだ。「危険」との風評をぬぐう上で、防潮堤の完成は住民の悲願だった。ただ、地域の再生の裏に防災意識の「緩み」があってはならない。田口さんの表情からはそんな強い決意が感じられた。 (静岡新聞・豊竹喬)