新型コロナウイルスの感染拡大は災害の一種だ。
感染症対策ではそのつながりを断たなくてはならない。日常生活は大きく変わり、
多くの人が不安を強めている。
4月上旬のある日、朝起きると左耳が聞こえなくなっていた。東京都の会社員女性(29)が病院に駆け込むと、
メニエール病再発の予兆が出ていると診断され、医師からこう言われた。
「ストレスですね。新型コロナウイルスの感染拡大や行動自粛が影響しているんでしょう」
女性は業務過多でメニエール病と自律神経失調症を発症し、昨年12月から3カ月間休職した。だるさや不眠、耳鳴りに苦しみ、
3月に復職したばかり。このまま症状が悪化し、再びあの苦しい思いをするのかと怖くなった。
復職直後、仕事はテレワークとなった。主にチャットツールであるSlack(スラック)を使うが、
同僚の表情が見えず気持ちが読みとりにくい。仕事がスムーズに進まなくなった。
休職中は好きなお酒をやめ、快復後にバー巡りをするのを楽しみにしていた。3月中旬にお酒を解禁したとき、自粛ムードはさほど強くなかったが
「4月になれば状況はよくなるはず」とバー巡りは我慢した。そこへ緊急事態宣言。行きつけのバーは閉店が決まった。女性は憤る。
筑波大学医学医療系の太刀川弘和教授(災害・地域精神医学)によると、
感染症拡大時に人々が抱く感情には、主に「恐怖」と「不安」があるという。
「対処が難しい分、不安のほうが感情としてはやっかいです。恐怖や不安の感じ方はこれまでの体験や性格、耐性によって異なり、個人差が大きい。
ただ、今の世相を考えると、具体的な症状はなくても誰もが大きな不安を抱えて生活しているはずです」(太刀川教授)
恐怖や不安は本来、「危険を感じ取って逃げ出す」という生命維持に必要な感情だ。だが同時に自律神経を興奮させ、「血圧が上がる」「脈が速くなる」などの反応を引き起こす。
やがてイライラや焦り、動悸などの変調が表れて、寝つきが悪くなる人も多いという。
東京都の会社員女性(36)は最近、何をするにも気力がわかないという。
「3月中から体がだるく、4月に入ってからははっきり不調を感じています。やる気が起きず、頭にノイズが入ったようで思考が進まない。
仕事をしようとパソコンを開いても、ボーッとSNSを見てしまいます」
振り返ってみると、1カ月近くほとんど外出せず、誰とも話していなかった。
3月上旬から在宅勤務。事務作業が中心の職種でビデオ会議などもなく、ひとり淡々と仕事を進めている。通っていたヨガ教室は休みに
リラックスすることも大切だ。音楽を聴く、ゆっくりお風呂に浸かるなど方法は人それぞれだが、
ポイントは脳の緊張状態を和らげること。一般的に言われている通り、適度な運動も非常に効果が高い。
いま、あらゆることを不安に感じるのは自然な反応だ。
「不安に感じる自分を恐れることはありません。
ただし、不眠や拒食になって日常生活に支障があるなら、受診を勧めます」(同)
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