新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、この世界は仁義なき戦いの様相を呈している。
ワクチンを大量一括購入し世界中に公平に供給する計画を練っている国際的な支援団体は、この状況に憂慮を深めている。
一部の富裕国が自国民のために有望なワクチン候補を何百万回分も確保しようと、先走って製薬企業と契約を締結しているのを見て困惑しているのだ。
複数の専門家によれば、米国、英国、欧州連合(EU)がファイザー(PFE.N)、ビオンテック(22UAy.F)、アストラゼネカ(AZN.L)、
モデルナ(MRNA.O)などと結んだものを含め、こうした契約はグローバルなワクチン配布計画を台無しにしつつある、という。
全世界で迅速かつ公正にワクチンを利用可能にする計画「COVAX」を共同で推進する「GAVIアライアンス」の
セス・バークレー事務局長は、「誰もが製薬企業と個別に契約を結ぶというのは、最善の状況をもたらす道ではない」と語る。
ファイザーは今週、EU及び複数のEU加盟国とのあいだで、同社が開発中のワクチンの供給契約について交渉を続けていると発表した。
また最新の動きとして、英国は29日、グラクソ・スミスクラインとサノフィが開発中のワクチンの優先供給を受ける合意を結んだと発表した。
国際医療NGO「国境なき医師団」によれば、こうした動きは「富裕国がワクチンを買い占めようとするグローバルな競争」をさらに過熱させ、
「ワクチン・ナショナリズムという危険なトレンド」を加速させるものだ。
懸念されているのは、今回のパンデミック(世界的な大流行)でも前回同様のワクチン供給・配分が再現されるのではないかという点だ。
前回、つまり2009─10年の新型インフルエンザ(H1N1ウイルス)流行においては、
富裕国が入手可能なワクチンを買い占めたため、当初は貧困国にまったく回ってこなかった。
このときは、結果としてH1N1による症状がさほど深刻ではなくパンデミックが最終的に終息したため、
ワクチン配分の不公平さが感染者数・死者数に与えた影響は限定的だった。
だが新型コロナウイルス感染症の脅威ははるかに大きく、世界人口のかなりの部分が脆弱なまま取り残されることは、
当事者にとって危険であるだけでなく、パンデミックを長引かせ、それによって引き起こされる損害を拡大することになる、と医療専門家は指摘する。
<終息は2年遅れも>
だがGAVIのバークレー事務局長は、ワクチンを世界各国で分け合って最もハイリスクな人々を最初に保護するのではなく、
利己的な国・地域が自国・地域の住民に投与するために独占してしまえば、パンデミックは制御できなくなる可能性があるという。
「たとえば米国全体、EU全体でワクチンを1人当たり2回投与しようとすれば、
約17億回分が必要になる。入手可能なワクチンが試算通りの量ならば、他国にはいくらも回らない」
少数の国、いや30ー40カ国がワクチンを入手しても150カ国以上が入手できない状況になれば、
「そうした国々で感染症は猛威を振るう」とバークレー事務局長は言う。
「このウイルスは稲妻のように移動する。結局は、ノーマルに戻れない状況に陥るだろう。
パンデミックを全体として抑制できない限り、商取引、観光、旅行、貿易は不可能だ」
バークレー事務局長や「ワン・キャンペーン」のスミス氏など医療専門家は、パンデミックを終息させるというのは全世界的に終息させるという意味だ、と語る。
「ワクチン配布の偏りがもたらすのは、パンデミックがあと1年続くのか2年続くのかという違いだ」とスミス氏は言う。
「経済の面でも公衆衛生の面でも、その違いは非常に大きい」
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-vaccines-access-idJPKCN24V15C
EU 仏製薬大手から3億回分ワクチン確保で合意 新型コロナ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200801/k10012544841000.html