国が2015年度から18年度の4年間に予算化した政策のうち、一般社団法人に支出した予算が少なくとも1兆3500億円に上ることが毎日新聞の調べで分かった。支出元は経済産業省が突出して多く、同省の予算執行が一般社団法人に依存している構図も浮かび上がった。
一般社団法人は08年に始まった公益法人制度で誕生した法人形態。公益社団法人が内閣府の監督下にある一方、一般社団法人に監督官庁はない。情報公開のルールも甘く、その実態を網羅する統計は存在しない。一般社団法人が担う予算の規模が明らかになるのは今回が初めて。
毎日新聞は政策シンクタンク「構想日本」などが開発した予算情報の解析システムをもとに、約5000に上る国の全事業について分析。一般社団法人への支出予算に限定し、公文書と照らし合わせて支出額とその執行状況を検証した。
それによると、集計可能な15年度からの4年間に一般社団法人に委託された事業は延べ5413件で、委託先は計1369法人。支出額のトップは電通が設立した一般社団法人「環境共創イニシアチブ(SII)」で、エネルギー関連事業など30件、計3708億円を支出していた。国の事業は5年に1度は外部点検を受ける必要があるが、SIIが担った事業の3分の2近くは点検を受けていない。
SIIは補助金の交付事務を行うに当たり、説明会の開催やコールセンターの運営にかかる事務などを他の事業者に再委託している。一般社団法人は法人に参加する社員企業への利益の分配を禁止しているが、こうした一部事務の委託先には本体の電通も含まれる。電通が設立した法人に補助金が流れ、その補助金で電通に再委託する構図は「サービスデザイン推進協議会(サ推協)」から電通やその子会社などに再委託された持続化給付金事業のスキームと同じだ。
電通が設立した一般社団法人を巡っては、新型コロナウイルスの影響で収入が減った事業者に給付する持続化給付金事業を担ったサ推協の不透明な再委託の実態が問題となった。SIIの代表理事はそのサ推協の設立時の代表理事と同じ人物。持続化給付金事業はサ推協ともう1社が入札に参加したが、その提案書などは非公開で、サ推協がなぜ応札したかを外部から判断することはできていない。毎日新聞はSIIに支出された予算公文書をもとに使途の分析を試みたが、提案書や実績報告書についてはやはり非開示。経産省は「開示したほうが良い項目があっても現行ルールではSIIが許可しない限り、開示はできない」と説明している。【袴田貴行】
◇財政民主主義 骨抜き
国に納めた税金の使い道は国民の監視下に置く――。憲法が定める財政民主主義の精神だ。だが、一般社団法人が予算執行を担う場合、それが難しくなる。情報公開が社員や債権者のみを対象としているためだ。持続化給付金の執行を担った「サービスデザイン推進協議会」の情報開示文書に「黒塗り」が多かったのも、説明義務が法令上、存在しないことに由来する。会計検査院による事後的な「官」の監視はあるものの、国民がチェックができない以上、財政民主主義の危機と言わざるを得ない。
かつて社団法人は財団法人とともに「公益法人」と呼ばれ、所管官庁が厳しく監督していた。ただ、手取り足取り指導するうち、天下り先と化した法人に「埋蔵金」がため込まれ、納税者の見えない世界で無駄な予算を使う「見えない政府」化が進んだ。その教訓から新しい制度では主務官庁制を廃し、国が監督するのは公益性の認定を受けた公益社団法人のみとし、一般社団法人は行政の監督下に置かないことにした。
ところが、監視の目が利かない世界としたことで、一般社団法人を隠れみのにした不正が横行。13年には東日本大震災の復興予算の流用先となった法人の不透明な実態が問題となり、法人を使った課税逃れも続出。決算公告を怠る法人も後を絶たない。
政府でも企業でもない「第3の公共」を広げる。そんな目的で始まった公益法人制度改革に携わった関係者は「一般社団法人が『何でもアリ』の世界になってしまった」と悔やむ。「官から民へ」の流れの下、一般社団法人が担う予算執行の領域はますます膨らんでいく。貴重な血税の執行を任せる存在である以上、外部監視が可能な情報公開のルールを整備しない限り、日本の財政民主主義はますます危機に陥ることになる。【三沢耕平】
https://news.yahoo.co.jp/articles/0d41dcf46c287c5e5525f612a44fd5520347cf70
一般社団法人は08年に始まった公益法人制度で誕生した法人形態。公益社団法人が内閣府の監督下にある一方、一般社団法人に監督官庁はない。情報公開のルールも甘く、その実態を網羅する統計は存在しない。一般社団法人が担う予算の規模が明らかになるのは今回が初めて。
毎日新聞は政策シンクタンク「構想日本」などが開発した予算情報の解析システムをもとに、約5000に上る国の全事業について分析。一般社団法人への支出予算に限定し、公文書と照らし合わせて支出額とその執行状況を検証した。
それによると、集計可能な15年度からの4年間に一般社団法人に委託された事業は延べ5413件で、委託先は計1369法人。支出額のトップは電通が設立した一般社団法人「環境共創イニシアチブ(SII)」で、エネルギー関連事業など30件、計3708億円を支出していた。国の事業は5年に1度は外部点検を受ける必要があるが、SIIが担った事業の3分の2近くは点検を受けていない。
SIIは補助金の交付事務を行うに当たり、説明会の開催やコールセンターの運営にかかる事務などを他の事業者に再委託している。一般社団法人は法人に参加する社員企業への利益の分配を禁止しているが、こうした一部事務の委託先には本体の電通も含まれる。電通が設立した法人に補助金が流れ、その補助金で電通に再委託する構図は「サービスデザイン推進協議会(サ推協)」から電通やその子会社などに再委託された持続化給付金事業のスキームと同じだ。
電通が設立した一般社団法人を巡っては、新型コロナウイルスの影響で収入が減った事業者に給付する持続化給付金事業を担ったサ推協の不透明な再委託の実態が問題となった。SIIの代表理事はそのサ推協の設立時の代表理事と同じ人物。持続化給付金事業はサ推協ともう1社が入札に参加したが、その提案書などは非公開で、サ推協がなぜ応札したかを外部から判断することはできていない。毎日新聞はSIIに支出された予算公文書をもとに使途の分析を試みたが、提案書や実績報告書についてはやはり非開示。経産省は「開示したほうが良い項目があっても現行ルールではSIIが許可しない限り、開示はできない」と説明している。【袴田貴行】
◇財政民主主義 骨抜き
国に納めた税金の使い道は国民の監視下に置く――。憲法が定める財政民主主義の精神だ。だが、一般社団法人が予算執行を担う場合、それが難しくなる。情報公開が社員や債権者のみを対象としているためだ。持続化給付金の執行を担った「サービスデザイン推進協議会」の情報開示文書に「黒塗り」が多かったのも、説明義務が法令上、存在しないことに由来する。会計検査院による事後的な「官」の監視はあるものの、国民がチェックができない以上、財政民主主義の危機と言わざるを得ない。
かつて社団法人は財団法人とともに「公益法人」と呼ばれ、所管官庁が厳しく監督していた。ただ、手取り足取り指導するうち、天下り先と化した法人に「埋蔵金」がため込まれ、納税者の見えない世界で無駄な予算を使う「見えない政府」化が進んだ。その教訓から新しい制度では主務官庁制を廃し、国が監督するのは公益性の認定を受けた公益社団法人のみとし、一般社団法人は行政の監督下に置かないことにした。
ところが、監視の目が利かない世界としたことで、一般社団法人を隠れみのにした不正が横行。13年には東日本大震災の復興予算の流用先となった法人の不透明な実態が問題となり、法人を使った課税逃れも続出。決算公告を怠る法人も後を絶たない。
政府でも企業でもない「第3の公共」を広げる。そんな目的で始まった公益法人制度改革に携わった関係者は「一般社団法人が『何でもアリ』の世界になってしまった」と悔やむ。「官から民へ」の流れの下、一般社団法人が担う予算執行の領域はますます膨らんでいく。貴重な血税の執行を任せる存在である以上、外部監視が可能な情報公開のルールを整備しない限り、日本の財政民主主義はますます危機に陥ることになる。【三沢耕平】
https://news.yahoo.co.jp/articles/0d41dcf46c287c5e5525f612a44fd5520347cf70