大阪市を廃止して4特別区を新設する「大阪都構想」は、戦後大きく変わることがなかった道府県と政令指定都市の在り方に一石を投じている。少子高齢化が進む中、大都市制度や地方自治はどうあるべきか、各地で模索が続いている。
人口約375万人。全国20の政令市で最大の横浜市は、神奈川県から市域の仕事と財源を移譲し、事実上独立する「特別自治市」の実現を目指す。同市の高齢者は10年後に100万人を超える見通し。社会保障費は増大、財政事情は厳しくなっており、県全体をけん引する余力がなくなってきていることが背景にある。
JR横浜駅から電車とバスを乗り継ぎ約40分。栄区の湘南桂台地区には手入れされた庭付きの家が並ぶ。高度経済成長期の1970年代から分譲が始まり、約1600世帯が暮らす。
「地域活動が大変になってきた」。地元自治会の黒川哲明会長(60)は漏らす。自治会の担い手は多くが70〜80代。周辺地区を含む高齢化率は47%に達する。敬老の集いは負担が重く、5年前に中止となった。
東京都に近い市北部の一部は人口が増えるが、湘南桂台のようなベッドタウンを抱える市南部は少子高齢化が加速する傾向にある。
将来人口推計などによると、10年後の市の人口は366万人。働き手の中心となる生産年齢人口(15〜64歳)は11万人減の224万人、65歳以上は10万人増の102万人に。市は社会保障費や高度成長期に建設した学校などの改修費が膨らみ、2030年度の歳入と歳出の収支は757億円の赤字と試算する。
∞ ∞
「市の成長のため、何としても成し遂げなければならない」。林文子市長は9月の市議会で特別自治市への意欲を改めて示した。
横浜市域の県、市税の総額(16年度決算)は約1・2兆円で県税は4割を占める。県税は市内で行う県事業や他自治体への補助事業などに活用している。特別自治市は県税を市税に移管し、現在は県が担っている仕事も移す。市は「自前の財源が増え行政サービスも向上する」。
ただ、神奈川県は冷ややかだ。武井政二副知事は横浜市内からの県税が多い点を踏まえ、「特別自治市は税に備わる富の再分配を阻害し、横浜市以外の行政サービス低下を意味する」と反論する。
林市長は12〜19年に全18区で住民説明会を開催。自民党横浜市連幹事長の梶村充市議は、菅義偉首相の誕生が追い風になると見る。
菅氏は秋田県出身だが、横浜市を地盤とする国会議員の秘書や横浜市議を務めた。「指定都市を応援する国会議員の会」の代表。政令市の強化に理解が深い。大阪都構想の根拠法制定も推進した。
菅氏と40年来の付き合いという梶村市議は今月、官邸を訪れ、特別自治市の早期実現に向けた法制化などを訴える党市議団の要望書を首相に手渡した。「この機会を逃してはいけない」。“地元”宰相の政治力に期待する。 (大坪拓也、豊福幸子)
九州 近年は議論停滞
九州では県と政令市の役割分担や政令市の税財源・権限の強化などについて議論が活発化した時期もあったが、近年は目立った動きはない。個別課題を県と政令市が協議し、現行制度下で調整するにとどまっている。
大都市制度の在り方を巡っては、愛知県と名古屋市の「中京都構想」や新潟県と新潟市の「新潟州構想」などが議論されたが、具体化はしなかった。福岡、北九州、熊本の3政令市は共同研究会を設置。2013年4月に公表した報告書は、道州制移行を見据え、基礎自治体中心の地方分権改革を掲げ、(1)県から大都市への権限・税財源のさらなる移譲(2)大都市を核とした広域連携の推進(3)大都市での住民自治の充実−などを目指すことを盛り込んだ。
二重行政の解消に向けては、16年4月施行の改正地方自治法が、県と政令市の課題解決の場として「調整会議」の設置を義務化。熊本県では過去2回開催し、熊本地震被災者の住まい再建や国際スポーツ大会の推進などを協議した。
福岡県では「二重行政に関連する調整が必要な課題がない」として、調整会議は一度も開かれていない。一方、今年4月に県内で徴収が始まった「宿泊税」を巡っては、県と福岡市がともに導入を主張し、半年間にわたって激しく対立。それぞれが創設した上で、県と市の課税額を調整することで落ち着き、県と市の双方が課税する全国初の「二重課税」となった。
広島県と広島市 業務連携し二重行政見直し
広島県と広島市はこの8年間、二重行政の解消を目的に連携を深め、公営住宅や公園の運営など主に7分野で業務を見直してきた。(後略)
西日本新聞 2020/10/29 6:00
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/659020/
人口約375万人。全国20の政令市で最大の横浜市は、神奈川県から市域の仕事と財源を移譲し、事実上独立する「特別自治市」の実現を目指す。同市の高齢者は10年後に100万人を超える見通し。社会保障費は増大、財政事情は厳しくなっており、県全体をけん引する余力がなくなってきていることが背景にある。
JR横浜駅から電車とバスを乗り継ぎ約40分。栄区の湘南桂台地区には手入れされた庭付きの家が並ぶ。高度経済成長期の1970年代から分譲が始まり、約1600世帯が暮らす。
「地域活動が大変になってきた」。地元自治会の黒川哲明会長(60)は漏らす。自治会の担い手は多くが70〜80代。周辺地区を含む高齢化率は47%に達する。敬老の集いは負担が重く、5年前に中止となった。
東京都に近い市北部の一部は人口が増えるが、湘南桂台のようなベッドタウンを抱える市南部は少子高齢化が加速する傾向にある。
将来人口推計などによると、10年後の市の人口は366万人。働き手の中心となる生産年齢人口(15〜64歳)は11万人減の224万人、65歳以上は10万人増の102万人に。市は社会保障費や高度成長期に建設した学校などの改修費が膨らみ、2030年度の歳入と歳出の収支は757億円の赤字と試算する。
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「市の成長のため、何としても成し遂げなければならない」。林文子市長は9月の市議会で特別自治市への意欲を改めて示した。
横浜市域の県、市税の総額(16年度決算)は約1・2兆円で県税は4割を占める。県税は市内で行う県事業や他自治体への補助事業などに活用している。特別自治市は県税を市税に移管し、現在は県が担っている仕事も移す。市は「自前の財源が増え行政サービスも向上する」。
ただ、神奈川県は冷ややかだ。武井政二副知事は横浜市内からの県税が多い点を踏まえ、「特別自治市は税に備わる富の再分配を阻害し、横浜市以外の行政サービス低下を意味する」と反論する。
林市長は12〜19年に全18区で住民説明会を開催。自民党横浜市連幹事長の梶村充市議は、菅義偉首相の誕生が追い風になると見る。
菅氏は秋田県出身だが、横浜市を地盤とする国会議員の秘書や横浜市議を務めた。「指定都市を応援する国会議員の会」の代表。政令市の強化に理解が深い。大阪都構想の根拠法制定も推進した。
菅氏と40年来の付き合いという梶村市議は今月、官邸を訪れ、特別自治市の早期実現に向けた法制化などを訴える党市議団の要望書を首相に手渡した。「この機会を逃してはいけない」。“地元”宰相の政治力に期待する。 (大坪拓也、豊福幸子)
九州 近年は議論停滞
九州では県と政令市の役割分担や政令市の税財源・権限の強化などについて議論が活発化した時期もあったが、近年は目立った動きはない。個別課題を県と政令市が協議し、現行制度下で調整するにとどまっている。
大都市制度の在り方を巡っては、愛知県と名古屋市の「中京都構想」や新潟県と新潟市の「新潟州構想」などが議論されたが、具体化はしなかった。福岡、北九州、熊本の3政令市は共同研究会を設置。2013年4月に公表した報告書は、道州制移行を見据え、基礎自治体中心の地方分権改革を掲げ、(1)県から大都市への権限・税財源のさらなる移譲(2)大都市を核とした広域連携の推進(3)大都市での住民自治の充実−などを目指すことを盛り込んだ。
二重行政の解消に向けては、16年4月施行の改正地方自治法が、県と政令市の課題解決の場として「調整会議」の設置を義務化。熊本県では過去2回開催し、熊本地震被災者の住まい再建や国際スポーツ大会の推進などを協議した。
福岡県では「二重行政に関連する調整が必要な課題がない」として、調整会議は一度も開かれていない。一方、今年4月に県内で徴収が始まった「宿泊税」を巡っては、県と福岡市がともに導入を主張し、半年間にわたって激しく対立。それぞれが創設した上で、県と市の課税額を調整することで落ち着き、県と市の双方が課税する全国初の「二重課税」となった。
広島県と広島市 業務連携し二重行政見直し
広島県と広島市はこの8年間、二重行政の解消を目的に連携を深め、公営住宅や公園の運営など主に7分野で業務を見直してきた。(後略)
西日本新聞 2020/10/29 6:00
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/659020/