経済を回復させるためにも、新型コロナウイルスの急速な蔓延まんえんを食い止める必要がある。政府の対応には、もどかしさを感じざるを得ない。
政府は旅行支援策「Go To トラベル」について、専門家でつくる新型コロナ感染症対策分科会の提言を受け、大阪、札幌の両市を目的地とする旅行を事業の補助対象から除外した。
だが、その直後に分科会から、出発も含めるよう求められ、菅首相は、両市から出発する旅行を控えることを呼びかけた。
利用者の居住地域の特定が難しいとして、出発は自粛要請にとどめた。旅行代金の補助は継続したままで、実効性に疑問が残る。
「Go To」事業は、外出を促す象徴的な対策だ。政府による運用の見直しが小出しになっているのは、政策の失敗という批判を恐れているためではないか。
感染症対策と経済活動の両立に向け、消費の喚起は重要だが、感染者が急増している局面では、後回しにするのが妥当である。柔軟に施策を変更すべきだ。
政府は、今月15日頃までを「勝負の3週間」と位置づけ、国民に感染防止策の徹底を求めている。感染抑止の瀬戸際であると強調しながら、人の往来を助長していては、国民は戸惑うだろう。
危機感を共有するため、政府には明確な指針に基づいたメッセージを発出してもらいたい。
感染が収束に向かわなければ、経済の再生が遅れるだけでなく、来年の東京五輪への不安が高まろう。政府は当面、感染抑止に最優先で取り組まねばならない。
コロナ対策を担う西村経済再生相は、事業停止について「知事にまずは判断してほしい」と述べている。地域によって状況が異なるとはいえ、自治体側の要望を待つ姿勢は理解に苦しむ。政府が先手先手で対応することが肝要だ。
東京都の小池百合子知事は、事業を停止するかどうかは「国が考えるべきだ」と語っている。
責任を押し付け合っている場合ではない。都市部では病床の使用率が上がり、重症患者も増えている。判断の遅れが取り返しのつかない結果を招かぬよう、国と自治体が連携することが不可欠だ。
感染防止策に協力している人は多い。感染が拡大している地域では、飲食店の大半が営業時間の短縮要請に応じている。
補正予算で計上した予備費は、約7兆円が未執行だという。事業の継続や雇用維持、医療機関の支援に活用することが大切だ。
2020/12/01 05:00 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20201130-OYT1T50232/