米欧新興企業がワクチンをスピード開発 最先端の遺伝子技術が可能に
産経 2021.1.3 17:05
https://www.sankei.com/life/news/210103/lif2101030011-n1.html
米製薬大手ファイザー(下)とドイツのバイオ企業ビオンテックのロゴ(ロイター)
【パリ=三井美奈】米国や欧州で昨年12月に接種が始まった
新型コロナウイルスのワクチンは、
ゲノム解析から1年足らずで実用化された。
異例のスピード開発は、メッセンジャーRNA(mRNA)という
リボ核酸を使った最先端の遺伝子技術が可能にした。
欧州連合(EU)で12月27日、
接種が始まったワクチンは米製薬大手ファイザーと
ドイツのバイオ企業ビオンテックが共同開発した。
米国ではこのワクチンに加え、
米バイオ企業モデルナのワクチンも投与が始まっている。
いずれも、mRNAを活用したワクチンだ。
ドイツの別のバイオ企業、キュアバックも12月21日、
開発中のmRNAワクチンで、
臨床試験の最終段階となるフェーズ3入りを発表した。
mRNAは、タンパク質を作り出す「設計図」となる物質。
ワクチンは、mRNAを体内に投与することで、
抗原となるタンパク質を人工的に合成する仕組みだ。
従来型ワクチンは、弱体化したウイルスを投与するため、
製造には大量のウイルス培養が必要だが、
mRNAワクチンはウイルスの配列が分かれば
比較的短時間で開発が可能。
病原体であるウイルスを体内に入れないため、
安全性にも優れているとされる。
ビオンテックは2008年、モデルナは10年に設立。
それぞれ、がんや心疾患のワクチン開発でmRNA技術を蓄積してきた。
モデルナが、人への初の治験となるフェーズ1を開始したのは昨年3月。
新型コロナのゲノム配列が最初に公開されてから、わずか2カ月後だった。
1990年代からmRNA研究に取り組むスイス・チューリヒ大の
スティーブ・パスコロ研究員は仏紙で
「mRNAは脆弱(ぜいじゃく)だという偏見があるが、誤りだ。
皮膚や水などに存在する酵素で切れてしまうので、
防止できる開発環境を整えればよい」
と話した。
パスコロ氏は2000年、キュアバック設立に参加した。
世界保健機関(WHO)によると、
12月29日時点で臨床段階にある新型コロナのワクチン候補は、
緊急承認されたファイザー/ビオンテック、モデルナのワクチンを含めて60種。
うちmRNAワクチンが7種を占める。
mRNAワクチンは超低温での保管が必要。
EUのワクチンは先週、ファイザーのベルギー工場から、
温度モニター付きの冷蔵庫で各国に輸送された。
日本では製薬大手、第一三共がmRNAワクチンを開発中。
今春の臨床試験開始を目指している。