電光掲示板のネオンだけが光るタイムズスクエア、シャッターの下りた劇場街ブロードウェー。
年の瀬の米ニューヨーク中心部マンハッタンから例年のあふれ返る人波が消えた。
「この街のいちばん大切なものが奪われてしまった。世界中から来た人々の熱気、何千、何万もの店やレストラン。そして、あらゆる音楽も」。
ニューヨークを拠点に活動するシンガー・ソングライターのペトラ・ジャスミーナ(31)は肩を落とす。
北欧フィンランド出身。19歳から世界を旅して回り、ニューヨークに来たのは五年半前のこと。
「仕事も知り合いもなかった。でも、ここにはチャンスがあると感じたから」。以来、ジャスミーナはイベント企画の仕事をしながら独自のポップ音楽を追求してきた。
だが、初のミニアルバムを出してブロードウェーの舞台制作にも関わり始めた昨春、「わたしのステップは止まってしまった」。新型コロナウイルスが街を襲ったからだ。
全米のコロナ拡大の震源地となったニューヨークは、この時の厳格な都市封鎖から立ち直れていない。
ハーバード大などの研究グループによると、市経済を支える全中小企業の昨年11月の収益は、
コロナ禍前の一月に比べ48・7%減と全米平均(32・3%減)を大幅に下回った。
街の繁栄を謳歌していた富裕層らは、感染を恐れて市内から逃げ出した。
隣のニュージャージー州の不動産会社のアリソン・ジファート(53)は「8、9割はニューヨークからの客だ」と話す。
同社では物件1つに25件の申し込みがあったことも。シンクタンクが発表する全米の地区ごとの不動産価格トップテンでは、
昨年初めてニューヨーク市内の地名が消えた。
街角には失業者が増え、12月初旬までの殺人件数は、1昨年同期を4割上回る426件を記録した。
1970〜80年代、空洞化や治安悪化に苦しんだニューヨーク。
米国景気が回復する90年代後半まで続いた悪夢は、再び繰り返されるのか。
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