新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言に慎重姿勢を続けていた菅義偉首相が4日、発令にかじを切った。年明け早々に方針転換を余儀なくされた背景には、東京など首都圏1都3県の知事や医師会からの強い圧力がある。感染拡大に歯止めがかからず、世論に押されて観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止に踏み切らざるを得なかった時と同様に、見通しの甘さと対応の遅さは否めない。(井上峻輔、清水俊介)
◆「宣言なしで可能」一転「強いメッセージ必要」
首相は4日の年頭会見で、緊急事態宣言について「1都3県では3が日も感染者数は減少せず、全国の感染者の半分。状況を深刻に捉え、より強いメッセージが必要だと考えた」と説明した。昨年12月25日の年末会見で、宣言なしでも「(感染防止へ国民の行動変容は)可能だと思っている。必ず理解いただける」と明言したばかり。わずか10日後に、自身の認識の誤りを事実上認めた。
もともと政権内では、経済活動が大きく落ち込みかねない緊急事態宣言には慎重論が根強かった。既に感染拡大の「急所」と位置付ける都市部の飲食店に対する営業時間の短縮は要請済み。現行の特措法には、要請に罰則や補償の規定はなく「やれることは今とあまり変わらない」(政府関係者)との考えからだ。
◆医師会、4都県知事ら「早急に有効な対策を」
しかし、感染拡大は収まらず、年末の首相会見の前後から、政権への圧力は急速に強まった。野党から「一刻も早く緊急事態宣言を出すべきだ」(立憲民主党の枝野幸男代表)との声が上がり、日本医師会(日医)や日本看護協会など9団体は12月21日に「医療緊急事態宣言」を発表。日医の中川俊男会長は会見で政府に有効な対策を早急に打ち出すよう求めた。
同31日には、東京都の新規感染者数が初めて1000人を突破し、一気に1337人を記録。隣接する神奈川、埼玉、千葉各県でも過去最多を更新した。4都県の知事が1月2日、そろって西村康稔経済再生担当相に宣言の発令を要請したことが方針転換の決め手となった。
枝野氏は4日、記者団に「野党や知事の判断が先行し、首相はその後追いをする状況だ」と政権の対応を問題視した。
◆特措法改正巡り迷走も国会会期は延長せず
特措法改正を巡る動きも政権の迷走ぶりを印象づけている。
休業要請に実効性を持たせるための改正は、以前から全国知事会や野党が求めていたが「改正は感染状況が落ち着いてから」(政府高官)というのが従来の政権の方針。従わない事業者らに罰則を設ける案には賛否が割れていることもあり、昨年の臨時国会の会期を延長せず、12月5日に閉じた後も姿勢を変えなかった。
ところが、政権のコロナ対応が後手に回っているとの批判が高まり、内閣支持率が急落すると軌道修正。野党側に早期改正への協力を呼び掛け始め、今月18日召集予定の通常国会で最優先に取り組む方向だ。
◆早くても改正案成立は2月、宣言発令に間に合わず
改正案の成立時期は「2月初め」(自民党の森山裕国対委員長)の見通し。どんなに急いでも、今回の宣言発令には間に合わない。
首相は年頭会見で、宣言に伴う対応は「限定的、集中的に行う」と強調。なお経済を重視したい思いをにじませており、次の局面でも後手に回る可能性は否定できない。
東京新聞 2021年01月05日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/78003
◆「宣言なしで可能」一転「強いメッセージ必要」
首相は4日の年頭会見で、緊急事態宣言について「1都3県では3が日も感染者数は減少せず、全国の感染者の半分。状況を深刻に捉え、より強いメッセージが必要だと考えた」と説明した。昨年12月25日の年末会見で、宣言なしでも「(感染防止へ国民の行動変容は)可能だと思っている。必ず理解いただける」と明言したばかり。わずか10日後に、自身の認識の誤りを事実上認めた。
もともと政権内では、経済活動が大きく落ち込みかねない緊急事態宣言には慎重論が根強かった。既に感染拡大の「急所」と位置付ける都市部の飲食店に対する営業時間の短縮は要請済み。現行の特措法には、要請に罰則や補償の規定はなく「やれることは今とあまり変わらない」(政府関係者)との考えからだ。
◆医師会、4都県知事ら「早急に有効な対策を」
しかし、感染拡大は収まらず、年末の首相会見の前後から、政権への圧力は急速に強まった。野党から「一刻も早く緊急事態宣言を出すべきだ」(立憲民主党の枝野幸男代表)との声が上がり、日本医師会(日医)や日本看護協会など9団体は12月21日に「医療緊急事態宣言」を発表。日医の中川俊男会長は会見で政府に有効な対策を早急に打ち出すよう求めた。
同31日には、東京都の新規感染者数が初めて1000人を突破し、一気に1337人を記録。隣接する神奈川、埼玉、千葉各県でも過去最多を更新した。4都県の知事が1月2日、そろって西村康稔経済再生担当相に宣言の発令を要請したことが方針転換の決め手となった。
枝野氏は4日、記者団に「野党や知事の判断が先行し、首相はその後追いをする状況だ」と政権の対応を問題視した。
◆特措法改正巡り迷走も国会会期は延長せず
特措法改正を巡る動きも政権の迷走ぶりを印象づけている。
休業要請に実効性を持たせるための改正は、以前から全国知事会や野党が求めていたが「改正は感染状況が落ち着いてから」(政府高官)というのが従来の政権の方針。従わない事業者らに罰則を設ける案には賛否が割れていることもあり、昨年の臨時国会の会期を延長せず、12月5日に閉じた後も姿勢を変えなかった。
ところが、政権のコロナ対応が後手に回っているとの批判が高まり、内閣支持率が急落すると軌道修正。野党側に早期改正への協力を呼び掛け始め、今月18日召集予定の通常国会で最優先に取り組む方向だ。
◆早くても改正案成立は2月、宣言発令に間に合わず
改正案の成立時期は「2月初め」(自民党の森山裕国対委員長)の見通し。どんなに急いでも、今回の宣言発令には間に合わない。
首相は年頭会見で、宣言に伴う対応は「限定的、集中的に行う」と強調。なお経済を重視したい思いをにじませており、次の局面でも後手に回る可能性は否定できない。
東京新聞 2021年01月05日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/78003