バイデンのアジア重視を示したキャンベル元国務次官補起用
Newsweek 2021年1月14日(木)18時03分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所アジア担当上級副所長、ジョージタウン大学教授)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/01/post-95397_1.php
抜粋です。記事リンク先を読んでください。
知日派とも言われるキャンベル(中央、2013年の訪日時) Toru Hanai-REUTERS
<早くから中国の覇権拡大を警戒してきたキャンベルをインド太平洋調整官に起用したことで、
新政権はアジアに関心がないという懸念は吹き飛んだ>
(略)
■日米同盟を強化した功績
(略)
そうした印象を吹き飛ばしたのが1月13日のニュースだ。
政権移行チームは国家安全保障会議(NSC)に
アジア政策を統括する重要ポスト「インド太平洋調整官」を新設し、
アジア通で知られるカート・キャンベル元国務次官補をこの大役に据えることにした。
キャンベル起用は3つの点で、バイデン率いる次期政権のアジア政策に大きな影響を及ぼす。
第1に、キャンベルは早い段階から中国の覇権拡大を警戒し、同盟国や友好国と連携して、
その動きを封じる戦略を提唱していた。
1990年代半ば、クリントン政権下で国防総省のアジア担当幹部になった時点では、
まだ地域情勢にはさほど詳しくなかったが、戦略的な直感はずば抜けていた。
冷戦終結後にその意義の再定義を迫られていた日米同盟を、
就任後2年足らずで強化することに成功し、
今日の密接な日米防衛協力に道をつけた。
オバマ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めた時期には、
いわゆる「アジア回帰政策」を推進。
この政策については、ヨーロッパと中東を後回しにするような印象を与えるとか、
中国を挑発する危険性があるといった批判もあったが、
その背後にあるパワーバランス戦略は妥当であり、
トランプ政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の土台ともなった。
キャンベルのアジア重視戦略は、
政権移行チームと民主・共和両党の議会幹部との合意の中核を成している。
第2に、キャンベルが就くポストが新設されたことで、
アメリカ外交におけるアジア戦略の重要性はかつてなく高まる。
筆者が2001年にNSCに入ったときには、ヨーロッパ部門はアジア部門の3倍の規模だった。
2005年の退任時には、ほぼ同じ規模になり、
いずれも上級ディレクター1人と、ほぼ5人のディレクターが指揮していた。
バイデン政権ではアジア部門に
今のヨーロッパ部門の3倍の3人か4人の上級ディレクターが置かれ、
NSC内でも特に大きな権限を持つ部門となる見込みだ。
(略)
■超党派の影響力
第3に、キャンベル起用は、
中国およびアジア戦略で超党派の合意を重視するという次期政権の意思表示ともなる。
共和党全国委員会は2020年の選挙で
自党の候補者たちにバイデンの対中政策を批判するよう指示したが、
実のところ米政界では対中政策をめぐり超党派の幅広い合意ができている。
戦略国際問題研究所(CSIS)が2020年8月に実施した調査によると、
同盟国との連携強化、重要な技術の保護、
人権と民主主義で中国に強い圧力をかけること
──この3点で民主・共和両党の議員や外交問題の専門家の考えは概ね一致している。
キャンベル自身、アジア政策における超党派の合意づくりに尽力してきた。
筆者はジョージ・W・ブッシュ政権時代にNSC入りする前に、
国防総省でキャンベルの下で働いたことがあり、
彼とは長い付き合いだ。
2019年12月までトラプ政権のアジア担当国防次官補として辣腕を振るった
ラダル・シュライバーもクリントン政権時代にキャンベルの下で働き始めた。
故ジョン・マケインはじめ、共和党の議員たちも中国、日本、台湾などアジアの国々については
たびたびキャンベルに助言を求めてきた。
マケインがシンガポール訪問を前に私たちのブリーフィングを受けた際、
キャンベルは台北に立ち寄ってほしいと強く求めた。
台湾への締め付けを強化する中国を牽制するためだ。
既に訪問日程は決まっていたが、マケインはスタッフに変更を指示し、キャンベルの勧めに従った。
キャンベルは誇り高き民主党員だが、
超党派外交と対外的な意思統一のためにその調整手腕を発揮してきた。
アメリカが無残なまでに分断されている今、彼をアジア外交の司令塔に据える意義は非常に大きい。(略)