中国リベラル知識人の「親トランプ化」とその後遺症
2021年2月13日
米村耕一・中国総局長
米国のトランプ前大統領の支持者のことを中国のインターネット用語で「川粉(チュアンフェン)」という。トランプ氏を意味する川普(チュアンプ)とファンを意味する粉絲(フェンス)を合体させた造語だ。
昨年11月の米大統領選前後、日本でもトランプ支持者の存在が話題になったが、中国でも、中国共産党に批判的で、人権や自由、民主主義といった普遍的価値を重視するリベラルな大学教授や社会活動家などがこぞって「川粉」となる現象が起きていた。
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Q とはいえ、トランプ氏が政権半ばから強めた反中姿勢も影響は与えたのでは?
A もちろん、リベラル知識人は、中国共産党は中国のためにならないと考えており、トランプを支持する理由の中に「共産党の敵だから」という面があることを否定するわけではない。ただ、それは大きな絵の一部分でしかない。より重要なのは、彼らには西側の政治・社会が(社会変革を経て目指すべき)灯台だという教条的な概念があり、そこに米国社会が戻ることを願っているということだ。今の西側の「文明」、米国の「文明」は少数派や移民、あるいは中国共産党の影響によってゆがめられていると考えている。
Q 知識人たちの親トランプ化に関心を持ったのはなぜか? なぜ重要なのか?
A 2015年に最初に関心を持ったのは、知識人たちの言動に非常に驚いたし、ショックだったからだ。多くの人は、私が尊敬していた人たちだった。
なぜこの問題が重要かだが、こうしたリベラルな知識人はかつて、そして一定程度は今も、中国社会において論点を作り出す力を持っている。彼らは多くのアイデアや価値観を輸入し、こうした知的資産は、将来的な中国の政治改革に有用なはずだった。しかし、彼らは今回、完全に信頼を失ってしまった。あまりにも(トランプ氏を巡る)多くの陰謀論を信じ、発言してしまったからだ。もう一つは、トランプ氏を支持する論理を展開する過程で、トランプ氏が行った人種差別的なこと、移民排斥的なことを正当化した。これは今、逆に中国のナショナリストにとって利用しやすい論理を提供する結果となっている。中国政府が新疆ウイグル自治区で行っていることを正当化する論理だ。ナショナリストたちは新疆での出来事について「トランプ氏なら同じことをしただろうし、リベラルな知識人たちも賛成しただろう。なぜ我々が同じことをしてはいけないのか」と言っている。トランプ氏を支持したリベラルな知識人たちによって、中国の政治状況はより悪くなったといえる。
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https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210211/pol/00m/010/024000c