【ベルリン=石川潤】欧州中央銀行(ECB)は11日に政策理事会を開き、今後3カ月間の資産購入をこれまでより「かなり速いペースで実施する」と決め、発表した。欧州では米金利上昇を追いかけるように長期金利が上昇していた。新型コロナウイルスの感染拡大リスクが消えず、経済・物価の回復が力強さを欠くなか、金利だけが上昇する事態を避ける狙いがある。
コロナ対策の資金供給の特別枠は1兆8500億ユーロ(約240兆円)のままだが、より積極的に国債などの購入を進めていく。声明文では「市場の状況にあわせて柔軟に」資産購入を進める考えを強調した。主要政策金利は0%、中銀預金金利はマイナス0.5%に据え置いた。
ECBのラガルド総裁は理事会後に記者会見し、経済の先行きに「不確実性が残っている」と指摘。「良好な金融環境を守ることが引き続き重要だ」と強調した。
欧州の長期金利は、巨額の財政出動などでインフレ期待が高まる米国に引っ張られるように上昇している。指標となるドイツ10年債利回りは1月のマイナス0.5%程度から、2月後半にはマイナス0.2%程度まで上昇していた。ECBの発表を受け、ドイツ、イタリアの長期金利は低下し、ユーロの対ドル相場も下落した。
長くマイナスに沈んでいた消費者物価上昇率がプラスに転じたことが、金利上昇の追い風になった面もある。ただ、実際にはドイツの付加価値減税の終了やエネルギー価格の回復といった技術的、一時的な要因が大きい。物価上昇率は年末にいったん2%程度まで高まるが、実態はそれほど強くないというのがECBの見立てだ。
欧州の主要国では、新型コロナの感染抑制のための厳しい行動制限が続いており、需要不足の状況が続く。ECBが11日公表した新しい経済見通しによると、物価上昇率は21年が1.5%、22年が1.2%、23年が1.4%で力強さを欠く。21、22年は上方修正したが、23年は据え置いた。
ワクチンの接種が少しずつ進むなど、明るい兆しは見えつつある。それでも、新型コロナの変異ウイルスの拡大などのリスクは消えない。ようやく回復し始めた経済を、大規模な緩和政策でできるだけ長く支えるべきだとの意見が多い。
ラガルド総裁はこれまでも「良好な金融環境」を維持すると繰り返してきた。経済がまだ弱いのに、期待先行で金利だけが上昇してしまうと、政府や企業、家計の借り入れコストが膨らみ、景気回復に水を差してしまうからだ。
経済が危機の出口に向かうにつれて、金利は揺れ動きやすくなる。回復が腰折れしないように金利を抑え、いかに経済の正常化を実現していくか。危機の谷が深かった分だけ、ECBの政策の難易度も高まっている。
日本経済新聞 2021年3月11日 17:28 (2021年3月12日 5:21更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10DXR0Q1A310C2000000/