新種の“デルタ株”が世界各地で猛威を振るっている。医師らは「パンデミックを制御するには、
ワクチン接種を受ける若い成人と子供たちの数にも大きく依存する」と警告しているが、ワクチンは安全性の確認が必須だ。
アメリカ食品医薬品局も「感染のリスクとワクチン接種の潜在的な副作用のバランスをとる必要がある」と語っており、
アメリカでは生後6ヵ月から12歳未満の小児向けの、広範囲な臨床試験が行われている。
米バイオ製薬モデルナは、今年3月よりボランティアの募集を開始。約7000人が登録されている。
同社によれば、年齢別に研究を進めており、最初は6〜11歳の子供、次に2〜6歳の子供、最後に生後6ヵ月から2歳の子供の順に研究を行なう予定だ。
感染症、ワクチンに詳しい米小児科医のポール・オフィットは、「(新たな)知識を得るためには常に人的代償がある」と、「ニューヨーク・タイムズ」に述べているが、
「臨床試験ボランティア」へ志願した子供たち、またその親たちの心情はどのようなものなのか。
約7000人の志願者の中のひとり、ニューヨーク州在住のウォーカー・クラリー(9)は今月、1回目の接種を受けた。
志願の動機については、かかりつけの病院で「募集ポスターを見てすぐ、僕もボランティアをしたいと思った」と、地元メディア「シラキュース」に語っている。
「他の子たちを助けたい。ワクチン接種をためらっている他の子たちを安心させることができたら嬉しい」
彼には両親のほか、14歳の兄、12歳の姉がおり、家族全員がワクチン接種済みだった。
そのため、ワクチンを受けることに「何も不安はなかった」。ただ、接種した日の夜は「腕が痛くて眠るのに苦労した」と語っている。
彼の父親は、14歳の長男も昨年、同ワクチンのボランティアになったと、米紙「ニューヨーク・ポスト」に明かしている。
彼は子供たちに、こういったボランティアを行う機会があること、そして、医師や専門家らがワクチンおよび同研究についてどう語っているのかを説明したそうだ。
「息子は昨年、他の同世代の子供たちと同じように学校に行けなかった。家で多くの時間を過ごさなければならず、辛そうだった。
だからこそ、自分だけでなく全米のほかの子供たちのためにも、と考えているのだろう。このボランティア経験が、
以前のようにみんなが学校に通える毎日を取り戻すのに役立つ機会であることを理解していると思う」
6歳と3歳、そして生後14ヵ月の子供を持つメリーランド州在住のキャロウェイ夫妻は、
3人の子供全員をワクチン臨床試験のボランティアに登録したと、米メディア「CNN」に語っている。
動機については、当時3歳だった娘のひとりを1型糖尿病で失ったからだと話す。米国疾病管理予防センターいわく、1型糖尿病は予防できない病気だ。
「私たちは自分たちではコントロール不可能な“何か”で娘を失った」。しかし、新型コロナウイルスは、「私たちが制御できるものです。
(ワクチン)は何百万人もの国民に対して効果を発揮したことが示されている」
「1型糖尿病も新型コロナも、幼児を死に追いやるケースは稀。けれど、起きてしまうこともある」
実際、パンデミック以来、アメリカでは「400万人以上の子供が新型コロナウイルス陽性になり、そのうち少なくとも346人が死亡した」と、アメリカ小児科学会は発表している。
とはいえ、「我が子をワクチンの実験台にしたくはない」という声も少なくない。
だが、キャロウェイ夫妻は我が子を失うという稀なケースの「統計になりたい人など誰もいない」と語る。「自分の家族に起きた場合、その悲しみは想像を絶するものです」。
「ワクチンは多くの子供たちの安全を確保するでしょう。私たちはその一助になりたい」
https://courrier.jp/news/archives/258245/