子宮頸(けい)がんなどの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐとされるワクチンの定期接種を巡り、
対象者の情報提供について、神奈川県内の自治体で対応が分かれている。
副反応と疑われる報告が相次いだことを受け、厚生労働省が2013年から積極的な接種呼びかけを控えているためだ。
医師らは接種率が低下すればがん発症リスクが高まるとして呼びかけ再開を求めており、厚労省は10月にも再開の可否について審議を始める。
HPVワクチンは13年4月に定期接種化されたが、接種後に痛みやしびれなどの訴えが相次ぎ、厚労省は同年6月、定期接種を維持したまま「積極的勧奨」を中止した。
その結果、接種率は中止前の約70%から1%未満に減少。世界保健機関(WHO)は日本を批判する声明を出し、
日本産科婦人科学会などは子宮頸がんなどの罹患(りかん)リスクが高まるとして勧奨再開を求めている。
勧奨が中止されたことで、自治体は対象者への定期接種を案内する個別通知を控えるようになった。
厚労省が18年に実施した調査によると、全国の市区町村で定期接種の案内を窓口で配布せず、ホームページ(HP)にも掲載していないのは約7割に上った。
その結果、HPVワクチンの効果を知らない人がいる。
厚労省が同年に実施したインターネット調査で、12〜69歳の男女約2700人のうち34・2%がワクチンの効果や意義を「知らない」と回答。
対象年齢の女性に限ると38・8%と割合が増加した。
しかし、ワクチンの有効性を示す研究結果が出たことなどから、厚労省は20年10月、
自治体に向けて定期接種の対象者に個別通知するなどして情報提供を充実するよう通知を出した。
これを受け、県内の自治体も取り組みを始めており、川崎市や鎌倉市などは対象年齢の女性にパンフレットやはがきを送付している。
ただ、多くの自治体では、無料で接種できる最後の年となる高校1年相当の女性に対象を限定する。
一方、横浜市は接種と副反応の因果関係が明確になっていないとして個別通知は実施していない。
厚労省の研究班は16年12月、接種後の症状は非接種者でも一定の頻度で見られたとする疫学調査の結果を発表したが、
接種と副反応の因果関係には言及できないとして明言を避けた。
市は「市民が安心して、打つか打たないかを判断できるような科学的根拠を示してほしい」とする。
厚労省は10月にも積極的勧奨の再開を検討する審議会を開く方針だが、現状は勧奨中止が維持された状態だ。
医師らがつくる一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」が運営する「みんパピ! みんなで知ろうHPVプロジェクト」の稲葉可奈子代表は、
勧奨を中止しつつ情報提供の充実を求めるという矛盾した施策が問題だと指摘した上で「自治体によって対応が異なると情報格差が生まれ、そのまま健康格差につながる。
はっきりしたスタンスにして、格差を解消してほしい」と早期の勧奨再開に期待を込める。
HPVワクチン
国内で年間約2800人が死亡している子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチン。
約半年かけて計3回接種する。日本では2009年に初めてワクチンとして承認され、13年に予防接種法に基づき、
小学6年〜高校1年に相当する年齢の女性は原則無料の定期接種となった。
https://mainichi.jp/articles/20210924/k00/00m/040/051000c