菊花の価格高騰が注目されている。コロナ禍からの需要回復に猛暑などが加わり、お盆前は例年にない高値に。その後は落ち着きつつあるが、お彼岸があるうえ、このまま安倍晋三元首相の国葬が行われればどうなるのかと、関係者は気をもむ。天候不順の夏で、他にも影響を受けた商品は多い。この「物価高」に政府の対策は十分なのか。(特別報道部・岸本拓也、中沢佳子)
◆コロナ禍で輸入減、彼岸需要で仕入れ価格はさらに高騰
入荷が少なく、すぐ売れてしまう菊の生花=13日、東京都練馬区のアキダイ関町本店で
入荷が少なく、すぐ売れてしまう菊の生花=13日、東京都練馬区のアキダイ関町本店で
「この業界で20年働いているが、お供え用の切り花を値上げしたのは初めてです」。生花の卸・販売を手掛けるデリフラワー(横浜市)の川又浩之社長は、最近の生花市場の値上がりぶりに驚く。
主にスーパーやホームセンターで生花の無人販売を行う同社は昨年末、菊などを組み合わせたお供え用の花を398円から498円に値上げした。「コロナ禍で輸入が減り、国産の菊の仕入れ原価は平均3割くらい上がっている。彼岸需要で菊の仕入れ価格はさらに上がる。今は採算を維持できているが、さらなる値上がりは厳しい」
東京都内でスーパーを展開する「アキダイ」の秋葉弘道社長も「菊の原価がかなり上がっているので、菊以外の花を多めに組み合わせて何とか販売価格を維持している。菊は入荷自体も少なく、なかなかしんどいのが正直なところ」と頭を悩ませる。
花きを取引する東京・大田市場では、仏壇や墓前に供える需要が高まるお盆前の8月上旬に価格が高騰。国産の白い輪菊や、小さな花がスプレー状に咲く小菊の平均卸価格が一時、1本当たり80円を超えるなど、前年から1~3割ほど上がった。最近は前年並みになってきたが、生花価格は需要や育成状況で大きく上下する。20~26日のお彼岸が近づき、再び上昇する可能性があるという。
◆国葬に計7万本超 内閣府「市場への影響は関知しない」
このまま行けば、そこに27日の安倍氏の国葬という要素が加わる。入札資料によると、式壇などの装飾に約6万5000本、献花用に白菊7500本で、計7万本超の菊を使う計画だ。
菊は1967年10月に行われた吉田茂元首相の国葬でも、大量に使われた。内閣総理大臣官房の「故吉田茂国葬儀記録」によると、式壇の飾りに5万本、献花に3万本で、計8万本。同記録は「大量の大輪菊が使われ、仕入れのために請負業者は関東近県および関西方面まで集花に飛び、国葬儀前には一時菊の値段があがるという事態もあった」と述懐している。
安倍氏の国葬も、吉田氏に匹敵する菊が必要になる。今回は直前の26日まで彼岸もあり、相まって値上がりに拍車をかけないか心配になるが…。
大田市場で卸売りを営む大田花きの担当者に聞くと、吉田国葬のころとは状況が異なるという。「現在は大田市場だけで50万~70万本もの輪菊を扱う日もある。国葬で7万本超の需要があっても、相場がはね上がるとは考えにくい。過去、芸能人や経営者らの大きな葬儀があったときも相場が上昇した記憶はない」と冷静だった。
国葬まで2週間を切ったが、吉田氏のときのように、もう菊の手配は始まっているのだろうか。
内閣府国葬儀事務局の担当者は「菊の調達は事業者が進めている」とした上で「量が多いと言われても、一般的に価格は需要と供給で決まる世界。マーケットへの影響は関知しない。ただ、もし市場で菊が不足すれば、事業者と相談してトルコキキョウやカーネーションなどの別の花の利用も検討する」と話した。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/201994