まずは、耳慣れない読者も多いであろうスロースリップ現象について簡単に説明しておく。同現象は、他にも「スロー地震」「ゆっくり滑り」「ぬるぬる地震」などさまざまな呼ばれ方をするが、基本的にプレート境界で見られ、地下の岩盤に蓄積されたエネルギーが断層のすべり運動となって解放されるものだ。それが急激であれば高速なすべり(通常の地震)となるが、この現象は大小互いに影響を与え合っているという。さらに現在では、発生期間により短期的・長期的スロースリップに分けて分析することもある。
スロースリップの概念図
これまで地震学者の多くが、スロースリップが巨大地震の前兆となった前例はないと考えてきたが、その認識は本当に正しいのだろうか? 筆者の分析によって、過去にスロースリップの直後に大きな地震が起きたケースは、以下のようなものがある。
1994年、三陸沖で約1年にわたりスロースリップ現象が続いたが、同年末の12月28日にM7.6、最大震度6の三陸はるか沖地震が発生し、3人が命を落とした。また、宮城県沖では2011年3月上旬にもスロースリップが見られたが、その直後に東日本大震災が発生した。これらは、気象庁気象研究所により「2011年東北地方太平洋沖地震前に見られた前兆的現象」としてまとめて公開されているが、やはりスロースリップは大地震の前兆現象として十分に“あり得る”との認識が学会でも深まりつつあることの表れだろう。
では、現在問題になっている房総半島沖では、過去にどのようなスロースリップが起きていただろうか。房総半島東部から千葉県東方沖にかけての領域は、オホーツクプレート(北米プレート)の下にフィリピン海プレート、さらにその下に太平洋プレートが沈みこむという複雑な三重構造になっている。オホーツクプレートとフィリピン海プレートの境界では、1983年・1990年・1996年・2002年・2007年・2011年・2014年と、頻繁にスロースリップ現象が発生していた。これらのうち2014年1月のケースでは、過去の記事でも解説したように、気象庁が地震に注意を呼びかけるなど異例の対応を取った。すると、約1カ月後となる2014年2月11日、房総半島南方沖でM5.3、最大震度3の地震が発生している。
今回、房総半島沖で6月3〜6日にかけて発生した群発地震に、通常とは異なる地殻活動が確認されたため、スロースリップと判定された。そして11日、政府の地震調査委員会は、房総半島沖でのスロースリップ確認を受けて今後は地震活動が活発化する可能性を指摘していた。するとその翌日となる12日朝、千葉県東方沖でM4.9、最大震度3の地震が起きたのだ。平田直委員長は「きのうの会合で指摘したとおりに地震が起きたといえる。今回は震度3だったが、今後はより揺れの大きい地震が起きる可能性もあるので、地震活動に引き続き注意してほしい」(NHK NEWS WEB、2018年6月12日)と警告している。
このようにスロースリップ現象は、研究が進展することによって、将来的に地震予知の可能性が大きく開けるかもしれない。これは極めて重要なトピックなのである。スロースリップ研究の第一人者である東京大学地震研究所の小原一成教授も、「スロー地震は巨大地震の発生と何らかの関係があり、観測によって巨大地震の発生や切迫度の予測に応用できる可能性がある」と語っている(読売新聞、2013年9月18日)。
続く
以下ソース
http://tocana.jp/2018/06/post_17231_entry.html
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