http://toyokeizai.net/articles/-/184194
ヤマハ、「電子ピアノ」20年ぶり大改良の理由
グランドピアノの弾き心地目指し鍵盤を刷新
20年ぶりとなる電子ピアノの大型改良で生まれたのは、ヤマハの”本気”が詰まった新製品だった。
楽器大手のヤマハは、電子ピアノ「クラビノーバ」の上級シリーズにおいて、6月から「グランドタッチ鍵盤」という新たな鍵盤機構を搭載した新製品を順次発売した。価格は28.8万〜42万円と高額だ。
グランドピアノやアップライトピアノといった、昔ながらのアコースティックピアノは、鍵盤を押すと、その先にあるハンマーが動いて弦をたたき音が鳴る。弦がない電子ピアノにとっての鍵盤は、電子音源を発するためのスイッチのような役割だ。
鍵盤機構の改良でグランドピアノへ近づけた
今回ヤマハは、20年ぶりに鍵盤機構を大幅に改良し、グランドタッチ鍵盤を作り上げた。目指したのは、電子ピアノを弾いたときの感触をグランドピアノに近づけることだった。
多くのピアノ曲はアコースティックピアノのために作られたもので、特にクラシック音楽ではその傾向が強い。演奏者が思い通りに曲を表現するには、グランドピアノのような音やタッチ感が重要となる。
音源に関しては、ヤマハのグランドピアノはもちろん、2008年に買収したオーストリアの高級ピアノ、ベーゼンドルファーの音も採用するなどしてきた。
鍵盤機構は、20年前に開発されたものをベースに、打鍵を感じるセンサーを改良・増設したほか、白鍵に木を埋め込んで見た目も感触もアコースティックに近づけるといった取り組みを続けてきた。
「だが改良をやり尽くし、限界を感じた」。技術開発部の市来俊介主幹は頭を抱えた。そこで鍵盤機構そのものを見直し、一新することにした。そうしないと、物理的な「グランドピアノらしさ」を実現できないと考えたからだ。
これまでグランドピアノと電子ピアノの感触を隔てていたのが、たたいたときに鍵盤が沈む「深さ」だった。ここが改良のポイントとなった。
グランドピアノは大きな音を出すために、鍵盤から支点部分までの距離が長く取っている。奥行きがあるのはそのためだ。これによって鍵盤もより深く沈む。今回の改良では、電子ピアノでも、鍵盤の端から支点までの距離を従来より長くした。
白鍵の端を押したときの深さは、アコースティックでも電子でも10ミリメートル程度で同じ。感触の違いを大きくしているのは、白鍵の奥側を押したときの鍵盤の沈む深さだった。
中型のグランドピアノで白鍵の奥側を押すと鍵盤が4.5ミリ沈む一方、ヤマハの従来機構の電子ピアノでは3.3ミリしか鍵盤が沈まず、感覚が重かった。新たなグランドタッチ鍵盤では支点の位置を鍵盤から遠くしたため、白鍵の奥の部分をたたいても4.5ミリ沈むようになった。
鍵盤の大改良で直面した2つの課題
だが電子ピアノにおいて鍵盤の支点の位置を奥にするのにあたっては、2つの課題があった。
1つ目は鍵盤の精度が確保できない点。すべての鍵盤は均一な間隔で並び、たたかれたときにまっすぐ下に落ちなければならない。だが従来の機構のまま支点を遠くすると、弾いたときに鍵盤がぐらつきやすくなってしまう。
そこで以前は鍵盤のブレをなくすための部品を2つつけていたのを、3つに増やした。
もう1つが、物理的に鍵盤を長くすると、ピアノ自体の奥行きが広くなってしまうことだった。これでは電子ピアノの売りである省スペース性が担保できない。
ここで主として工夫したのが、部品の配置だ。かつての機構では、鍵盤の支点の奥にスピーカーなどの部品を組み込んでいたため、部品の分だけ鍵盤機構としての奥行きを伸ばしていた。
今回の新機構では、支点部分の下に部品を入れ込んだ。結果、完成品の楽器としての奥行きは従来機構の製品と同じままに保つことができた。
新機構を搭載したモデルは発売されたばかりで客の反応はこれから。ただ楽器店からの反応は、「弾きごたえがよく、もっと弾きたくなる」と評価が高いという。
電子ピアノ市場に対する成長期待は大きい。ヤマハは電子ピアノの販売額で5割もの世界シェアを握る。同社は今2017年度、電子ピアノを含む電子楽器の売上高で前期比7.1%増の889億円を計画する
特に中国での電子ピアノ販売は2016年度に前期比2割の増収を達成、今年度も2ケタ成長の継続を見込む。
新興国を中心にまだまだ市場は広がる
電子ピアノは場所を取らないうえ、室内で弾いても音が漏れにくいため、集合住宅などで根強い人気がある。加えてアジアでは子供の情操教育の熱が高まっている。中国や新興国の学校などでの利用も増えており、市場の伸びが見込まれる。
こうした中、河合楽器やローランド、カシオ計算機などの電子ピアノメーカーの間で競争が激化。