http://president.jp/articles/-/25045
中国の"うそディズニー"でバイトしてみた
「ミッキー」っぽいが目つきが変
北京と上海の中間ぐらいにある中国沿岸部の田舎町に、一見して「ディズニーランド」のような遊園地がある。ここまで堂々とパクるのは、なぜなのか。フリーライターの西谷格氏は
現地の人々に混じって「着ぐるみ」のアルバイトをして、彼らの日常の姿に迫った。公然と著作権を無視する人たちの本音とは――。
日本人でも即面接、即採用
山東省煙台市は、北京と上海の中間ぐらいに位置する沿岸部の中規模都市。遊園地の場所を中国版グーグルマップ「百度地図」で検索すると、煙台市からさらに直線で60キロ以上離れていた。
そんな田舎の遊園地が、外国人である私を雇ってくれるのだろうか。恐る恐る電話をかけると、ダミ声の中年女性が電話口に出た。
「もしもし、何の用ですか?」
単刀直入に本題を切り出す。
「そちらの遊園地で仕事がしたいんです。着ぐるみを着たいのですが」
と聞いてみると、
「給料はいくら欲しいの? とりあえず事務所に来なさい」
と言われ、いきなり好感触。上海在住だと伝えると、「上海人か?」と聞かれたので、正直に日本人と答えた。それでも特段こちらを怪しむような気配はない。数日後に行くと約束し、飛行機とバスを乗り継いでたどり着いた。
遊園地のゲート付近にあった事務所を訪ねると、電話対応してくれた中年女性が現れた。髪をポニーテールに結んでメガネをかけており、なかなか品が良さそうだ。面接はパレードを担当している「演芸部」の部長が担当すると言い、先方の用意した簡単な履歴書(アンケート用紙レベル)を記入した。
面接は5分程度で終了し、翌日電話をかけると「2〜3日試用期間で様子を見て、本採用になったら給料は月々1500元(約2万2500円)でどうだ」と提示され、「好的(=ハオダ、いいですよ)」と答えた。あっけないほど簡単に採用されてしまった。
明日の朝8時にここに来いという。
なぜ、パクるのか?
面接後、客としてもパクリキャラを見ておきたいと思い、パーク内に入場してみた。入園料は200元(約3000円)。スタッフの月給の1割以上と考えると、現地では相当に高額であることがわかる。お金に余裕のある富裕層や、北京・上海あたりの都市住民しか相手にしていないのだろう。
チケットを見せてゲートをくぐると、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでおなじみの、地球儀のような球体のオブジェがいきなり目に入った。その奥にはシンデレラ城っぽい西洋風の城がそびえ立っているが
建築中なのか改装中なのか、仮設の足場で囲まれていてみすぼらしい。
園内は歩いて15分程度で一周でき、それほど広くはない。地図を片手に散策すると、さっそくビッグサンダー・マウンテン風の「鉱山小鎮」やスペース・マウンテン風の「星空過山車」など
ディズニーランドを彷彿とさせるアトラクションをそこかしこで発見。客が少ないのですぐに乗れるのかと思いきや、定員人数が集まらないと出発しないため、10分ほど待たされた。客が少なすぎて待たないといけないわけだ。
散策を続けていると、どこからともなく大音量のクラブミュージックが聞こえてきた。音のする方に行ってみると、ディズニーの七人の小人らしき着ぐるみが激しいダンスを踊っており、観衆が集まっていた。
小規模ながらも、園内でパレードをしていたのだ。(編集部注:2007年に内外の批判を浴びた)八景山遊楽園ほど露骨ではなかったが、パクリ遊園地は健在だった。
ミッキーはダメ、小人はOK
翌日、眠い目をこすって朝8時に出勤すると、無事パレード担当の「演芸部」へと配属された。面接をした演芸部の女性部長に案内されて、出演者の待機する控え室へ入った。
室内にいた7〜8人の同僚はみんな女性で、座ったままこちらをチラ見したが、すぐに各自メイクをしたり持参した朝食を食べ始めたりした。大げさに自己紹介するのも気が引けたので、ひとまず目の合った相手には笑顔で「ニーハオ」と挨拶しておいた。
席に座って休んでいたが、パクリキャラがいないかどうかが気になる。さりげなく室内を歩き回って物色していると、おお、あったあった、七人の小人の着ぐるみが、部屋の隅の方で無造作に転がっている。
もう少し丁寧に並べてあげたら良いものを、頭の部分だけが床の上に乱雑に放置してあるから、生首が転がっているみたいだ。よく見ると洗濯が不十分で全体的に黒ずんでおり、目つきが何となくホンモノと違う。口元は笑顔でも目が笑っておらず、可愛らしさが決定的に欠けていた。
周囲の目を盗んでスマホで写真を撮り終え席に戻ると、演芸部の女性部長から、
「これ、倉庫に持って行って」
と何着かの衣装を渡された。