日本人は移民排斥で有名な民族だ。いわゆる大和民族の純血を維持することは、日本人にとって当たり前の、
根深い考えのようだ。これが原因で、外国の移民受け入れにより出生率の問題を解決しようと、
公の場で議論しようとする人がいない。日本の一般人にせよ、政治界のエリートにとっても、これは最初から選択肢でさえないのだ。
私は日本人が示した、大和民族の純血に対する誇りを目にしたことがある。第二次世界大戦中に、
日本がシンガポールを植民地にした数年間、私はキャセイパシフィックのビルで英文誌の編集員だった。
日本軍の兵士は毎年12月8日、そこで祝賀式典を開いていた。彼らは日本刀を振りかざし、
「我々日本人は、天照大御神の子孫だ」と口にしていた。当然ながら現在の日本人はこんなことを言わないだろうが
、心の奥深くではこれを信じ続けており、変化が生じていないと思う。
心の奥底で、このような教え(我が民族は神聖であり、その他の民族は劣等だ)を深く信じているならば、多くのことが進めにくくなる。
例えば移民により人口の構造的な問題を解決するという常識的なプランは、一つの選択肢になったこともな
ければ、口にすることのできないタブーでさえある。
人口とその構造は、国の運命を左右する重要な問題だ。一国の人口が減少あるいは次第に高齢化するということは、
その国が衰退へと向かっていることを意味する。高齢者は家でテレビを見ていれば快適という場合が多く、
高級レストランに行くことも少なければ、車を買い替えたり、スーツやゴルフクラブを買うこともない。
高齢者は必要なものがすでに揃っており、消費が極端に減るのだ。この点、私は日本の未来に強い危機感を感じる。
今後10年以内に、日本国内の消費規模は縮小の一途を辿るだろう。近年かくも多くの経済刺激策が打ち出され
たにも関わらず、所期の目標に何一つ達しないのもその前兆であろう。
2012年5月、私は「アジアの未来」というシンポジウムに出席するために訪日した。期間中、私は多くの日
本政府高官と言葉を交わし、その中で、とわりけ日本が如何にして人口問題を解決するのかについて彼らに見解を求めた。
彼らを刺激しないよう、「移民を受け入れるということは考慮しているか」とは問わず、「どうやって解決
すべきか」とだけ尋ねた。すると、彼らの口から出る答えは、その多くが「産休と出産助成金の確保」というものだった。
私は失望した。助成金がどれほどまでの効果を発揮するというのか。同じような政策を実施した国を見ても
その効果は非常に限られているではないか。これはお金で解決が図れるような単純な問題ではなく、人々
のライフスタイルの変化、考え方の変化といった社会の総合的な要素がもたらした問題であるのだ。フラ
ンスやスイスのような出産支援策の成果があがった国であっても、そのプロセスは緩やかで、莫大な資金が投じられている。
日本は今、世界でなんら変哲もない平凡な国へと向かっている。当然、国民の生活水準は今後すぐには低下しない
だろう。西洋諸国と違い、日本の「外債」は少ない。しかも、日本の科学技術は依然高水準で、国民の教育水準も非常に高いためだ。
これらすべての条件が時間稼ぎをしてくれるが、最終的には人口問題が暗い影を落とし、そこから逃げ出せなく
なるだろう。もし私が日本の若者なら、他の国への移民を考える。日本に明るい未来は見えないからだ。
(作者:シンガポール元首相 リー・クアンユー)
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2014-03/26/content_31910340.htm