【ガンダムの生みの親】富野由悠季監督インタビュー特集
――現在『G-レコ』劇場版を鋭意制作中というお話をしていただきましたが、そんな中、監督には次回作の構想なども既にあるのでしょうか?
富野由悠季『G-レコ』はもうコンテが1年前に終わりましたから、あとは基本的に現場をフォローするだけです。まだ構想段階ですが、実をいうとこの1年は新作の脚本を書いていて、今は二回目の書き直しに入っています。
――それはアニメですか?
富野由悠季もちろんです。この歳になって今さら実写なんてできねえよ! という言い方もありますけど、もう一つ重要なことは、もう僕は手描きのアニメでいいと思っているわけです。
だから、オールCGに切り替えるなんてことはしません。というのは、手描きのアニメの媒体というのは、無くならないような気がしてきているからです。
――手書きアニメの新作は、一体どんな内容になるのでしょうか。
富野由悠季この前、WOWOWで放送されたメトロポリタン・オペラを観て気づいたんです。「あ、巨大ロボットアニメという枠って、オペラなんだよね」と。どうしてオペラという言い方をしてるかというと、オペラは大舞台で、音楽も役者も使っています。
そして、巨大ロボットものという大枠のなかで、ロボットが出てくると“戦闘シーン”があります。最近、映画『逆襲のシャア』(松竹系・1988年公開)を振り返る機会があったんですが、あの作品は戦闘シーンが多すぎるんです。
だけど、戦闘シーンはなくちゃいけない。
じゃあ、ロボットものの戦闘シーンはなんなんだろうと考えた時、いわゆるオペラでいう“歌うセリフ”のブロックなのだ、ということに気づきました。
――なるほど、分かりやすいです。
富野由悠季だから、オペラ歌手と同じように、堂々と戦闘シーンをやっていいんだ、と。問題はその中のお話です。つまり、オペラってでかい話をやっているか? と考えると、結局、オペラは男と女が寝るか寝ないかだけで、ほかのことは何もやっていないでしょ(笑)?
そこでニュータイプだとか、社会の革新だとかを言ってたら、そりゃ誰も観に来ないと気づいたんですよ。
――今のお話を伺って、新作のシナリオはとてもシンプルなものなのかな? とイメージしました。
富野由悠季ところが、シンプルにはならない。だって、歌を歌うシーンが多いんだよ(笑)。その寝たか寝ないかの話はどこでやる? まさにそのロボットものの枠の中でやるしかないんですが、そんなロボットものがあるんですか?
あるわけない。だって今まで誰もやっていないんだから。
今まさにその寝たか寝ないかっていう、つまり体感的なフィーリングを物語の中に入れている最中で、これはこれでとんでもなく難しい。
前へと進むのは死ぬまで元気でいたいから「なんとかスピルバーグに勝ちたい」
――ガンダム40周年ということで、ファンとしては過去を振り返りがちですが、富野監督は常に前へ進んでいる印象があります。
富野由悠季作り手は、やっぱり安心したら最後。安心したくない理由はどういうものかというと、死ぬまで元気でいたいからです。
――富野監督の元気の秘訣は、好きなアニメを作り続けるということですね。
富野由悠季ただ、好きというのも“好き勝手”ではないんです。だから、新作はオペラのようにと、一番分かりやすいところに落としているわけです。
――男女の恋愛をテーマにする理由とは?
富野由悠季だって、そうでもないとヒットしないもん(笑)。ヒットさせるということは、つまり支持されることです。
そして百万人の観客が見てくれれば、その中から“次の作り手”が出てきて、その若者たちが次の時代を生み出すと信じています。
――富野監督が作る“オペラ”は非常に興味があります。
富野由悠季そういうことから、なんとかスピルバーグに勝ちたいなぁと思っています(笑)。
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