さまざまな理由から社会との交流を断つ引きこもり。当事者や家族が、それぞれの幸せの形について考えるシンポジウムが11月25日、大阪市で開かれる。
参加する大阪府貝塚市の主婦、日花睦子(ひばなちかこ)さん(63)は、12年に及んだ次男(33)の引きこもりについて初めて講演する。
「甘え」「怠け」との批判を恐れてきたが、「話すことで誰かの励みになる」と登壇を決意した。(浜川太一)
日花さんは2年前に小学校教員を定年退職し、現在、同市で引きこもり当事者と家族の自助団体「コモド」を運営している。
次男は高校卒業後、専門学校に入学してすぐ不登校になった。理由を聞いても口を閉ざし、以来12年にわたり引きこもりが続いた。
小中学校時代にも、周囲からは孤立していた。幼少期から口数が少なく、人付き合いが苦手な性格だったため「個性だ」と深く考えなかったという。
自身も多忙を極め、次男が高校1年のときに離婚。親の介護も加わり「十分に目を向けられなかった」と責任を感じている。
自宅に知人が訪れた際には、トイレに行くことすら我慢して自室に閉じ籠もることも。事態の重さに、衝撃を受けた。
「このままでは生活が厳しい」。退職を機に次男を説得すると、次第に商品の袋詰めの内職を手伝い始め、「小学校の頃、球技が苦手だった」など、秘めていた苦悩を打ち明けるようになった。
次男のことを「全て知っている」と思い込んでいたが「全然分かっていなかった」。「思いを尊重していながら、実は放置していた」と悔やんだ。次男としっかり向き合おう−。自身の心境にも変化が表れた。
次男は昨年3月から、知人の居酒屋で週3日程度、開店前の掃除のアルバイトを始めた。相変わらず人付き合いは苦手な様子だが、職場に向かう次男の姿にうれしさを感じる。
自立へと歩み始めた次男に背を押され「同じつらさを抱える人を支えたい」と思い始めた。つらいときでも応援してくれる人は必ずいる−。肩身の狭い思いをする人が少しでも生きやすい社会になるよう、思いを伝えるつもりだ。
シンポは午前11時〜午後6時、大阪市中央区の府立男女共同参画・青少年センターで。参加費2千円。問い合わせは、主催のNPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」
引きこもりをめぐっては、期間が長期化し高年齢化が進んでいる。内閣府が平成27年に15〜39歳を対象にした調査によると、引きこもり当事者は全国で推計54万人。22年の70万人からは減ったが、7年以上の引きこもりは9年前の2倍になった。
KHJ全国ひきこもり家族会連合会の29年度の調査では、当事者の平均年齢は34・4歳で、10年前から4歳上昇。平均期間は9・6年と前年度の10・8年より短くなったが、40歳以上は平均18年に及ぶ。
収入のない当事者と親の高年齢化が進み、共倒れを懸念する声も高まっている。内閣府は12月にも、高齢化する当事者(40〜64歳)に対し初の全国調査を行い、支援策を考える方針だ。
引きこもり問題に詳しい宮崎大の境泉洋(もとひろ)准教授は「引きこもりはもはや、若者に限った問題ではない」と指摘し「若者を対象とした支援だけでなく、年齢に応じた情報提供や、社会との接点が持てる場を整備していく必要がある」と話している。
https://www.sankei.com/smp/west/news/181030/wst1810300025-s1.html