<周囲と自分を比べ、外見をバーチャルに加工して他人の承認を渇望する。SNSを「中毒性の鏡」と指摘する専門家も>
写真共有アプリのスナップチャットや顔写真加工アプリのフェイスチューンは若い世代になくてはならないツールだが、危険なトレンドを生んでいるかもしれない。
過剰にデジタル加工した自分の外見を、現実より好む若者が増えているのだ。
ボストン大学の皮膚科学の研究チームが米国医師会の顔面美容整形専門誌に発表した論説によると、美容整形医の55%が、自撮り写真の見栄えをよくするために顔の施術を希望する患者がいると報告している。
ソーシャルメディアと写真加工アプリが生んだ、現実には達成不可能な美しさを追い求める「スナップチャット異形症」だ。
従来の美容整形は、セレブの顔に似せたい人が多かった。しかし、写真加工アプリを使えば誰でも簡単に自分をセレブに似せたり、均整の取れた顔に修正したりできるようになった。
そこで最近は、鼻筋を細く、目を大きく、唇を分厚く加工した画像に、実物を似せようとする人が増えている。
「加工した自撮り写真は実現不可能なものが多く、現実と空想の境が曖昧になっている危険な傾向だ」と、研究チームは指摘する。
17年にアメリカで実施された美容整形手術(プチ整形を含む)は1750万件で、前年比2%増。豊胸、脂肪吸引、鼻の整形の順に多いが、最近特に増えているのが左右非対称の鼻や顔を修正する施術だ。
15年の調査によると、加工アプリを使っている10代の女性は自分の外見に不満を持ちやすく、体重や体形を実際より太めに評価して食事を制限しがちだ。
さらに、自分の画像を頻繁に投稿し、ソーシャルメディアを社会的な評価として重視する若い女性は、身体醜形障害や摂食障害になりやすい。
思春期の女性に関する著書が多いレイチェル・シモンズは、ソーシャルメディアを「中毒性の鏡」と呼ぶ。
周囲と自分を比べ、外見をバーチャルに加工して他人の承認を渇望し、過剰な肉体管理によって現実を加工済みの自分に近づけようとする。
ソーシャルメディアが生んだ身体醜形障害の解決策は、整形手術ではなく心理療法にあると、ボストン大学の研究チームは指摘する。
自撮りブームや承認欲求、プチ整形といった流行の言葉の裏には、深刻な危険が潜んでいる。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2018/11/post-93.php