「ハイリーセンシティブチャイルド(HSC)」。感受性が豊かで、他人の気持ちによく気がつく一方、周囲の刺激に敏感で傷つきやすい、
「人一倍敏感」な子供を指す言葉だ。5人に1人存在すると言われるが、周囲の無理解に苦しむケースが多い。HSCとの関わり方を専門家に聞いた。(油原聡子)
◆「5人に1人」
HSCは、米国の心理学者、エレイン・N・アーロンさんが提唱した概念だ。アーロンさんの著書「ひといちばい敏感な子」(1万年堂出版)によると、
HSCは、(1)深く考える(2)過剰に刺激を受けやすい(3)感情の反応が強く、共感力が高い(4)ささいな刺激を察知する−という。
個人差はあるが、例えば靴に入った砂や服のタグを痛がったり、怒られている人がいると自分も不安になったりする。病気や障害ではなく、生まれ持った気質だ。
日本では、平成27年にアーロンさんの本が翻訳されたのを機に、子育てに悩む人を中心に知られるようになった。
アーロンさんの本を翻訳した、心療内科医の明橋大二(あけはし・だいじ)さんは「5人に1人存在すると言われ、海外では研究が進んでいる」。医学的概念ではないため、
治療の対象ではない。明橋医師は「知覚過敏などの特徴が発達障害と共通するが、人の気持ちに気づきにくい発達障害と、HSCは違う」と指摘する。
アーロンさんの日本語版ホームページ(http://hspjk.life.coocan.jp/index.html)にセルフテストがある。子供がHSCか判断したい親のための質問もある。
◆周囲の無理解
HSCとどう向き合ったらいいのだろうか。
明橋医師は「嫌がることを無理にさせるとパニックになる。安心できる環境を提供して」とアドバイスする。ただ、必要以上に心配するため、
「親から見て明らかに大丈夫なときは、優しく背中を押して」。
敏感さの結果、傷ついたり疲れたりして「わがまま」と誤解されることも少なくない。明橋医師は「この子はこの子でいいと線を引くと、のびのび成長できる」。
音楽や絵など芸術的才能に秀でていることも多く、長所を認めて自己肯定感を育むことが大切だ。
◆押しつけない
一方、十勝むつみのクリニックの長沼睦雄(むつお)院長は「子供自身も、自分の性質を理解することが大切」と話す。
HSCは自分のつらさをあまり語らないため、まずは、子供が嫌なことは嫌だと言える安心安全な関係を作ることが大切だ。
「見方や感じ方、考え方を尊重し、価値観や判断を押しつけない。敏感であることのメリットや大切さを伝えるといい」と長沼院長。
親子で話し合ってルールを作り、破ったときにはまず理由を聞くと良いという。
長沼院長は「HSCを知らないと、病気を治そうという視点になる。
HSCだと分かると受け入れることができ、親も子も楽になっていく」と話している。
■学校の環境が苦手 不登校の原因にも
HSCは不登校の原因の一つとしても注目されている。
東京都町田市の主婦(33)は一昨年、新聞でHSCを知り、「自分のことだ」と驚いた。中学から私立女子校に通ったが、
教室のざわめきや教師の大声が苦手で、通学で満員電車に乗ると疲労感でぐったりした。
「そんなことで、と思われるかもしれないけれど本当に消耗した」
学校生活や人間関係に問題はなかったが、環境に耐えられず高校1年の夏ごろから不登校に。
その後、静かな環境を求め、定時制の高校に通い、
通信制大学を卒業した。「学校に行けない自分を責めていたが、HSCだと分かって安心した。
治るものでもなく、つきあっていくものと理解し、気が楽になった」
十勝むつみのクリニックの長沼睦雄院長は「敏感さの問題で来院する親子は、不登園、
不登校の悩みを抱えているケースが多い」と指摘。
「まずは安心安全な環境を保証し、ゆっくり休ませることを勧めます」
不登校・引きこもりの専門紙「不登校新聞」の石井志昂(しこう)編集長は「一時的に保健室登校にしたり、
フリースクールに通ったり、本人に適した教育環境を利用してもいいのではないか」と話している。
http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/190227/lif19022718330015-n1.html