https://digital.asahi.com/articles/DA3S14631919.html
オンライン診療、正しく活用 適さぬ症例も、医師が可否判断
患者がインターネットなどを通じて医師の診察を受けるオンライン診療。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省は4月、初診からのオンライン受診を、感染が収束するまでの「時限措置」として認めた。ただ対応が難しい病気もあり、通常の診療と組み合わせ、治療の質を落とさないことが大切だ。
「どうですか調子は?」
「変わりはないです」
8月下旬、高脂血症の治療を続ける東京都内の男性(70)は、こまごめ内科・循環器内科クリニック(東京都北区)の西城(さいき)由之院長によるオンライン診療を受けた。西城さんは、診察室のノートパソコン、男性は自宅でタブレットを使った。
男性は10年以上、自宅近くの病院を受診し、薬で治療を続けてきた。だが、新型コロナに感染するのを恐れ、オンライン診療ができるところを探した。5月に初めてこのクリニックを受診。4回目となるこの日は、診察を受けて、いつもと同じ血液中のコレステロールの値を下げる薬などを処方してもらった。「話しやすく、便利で助かっている」と男性はいう。
このクリニックは4月、オンライン診療を始めた。新型コロナとは関係なく準備していたが、開始後すぐに初診からのオンライン診療が認められた。
オンライン診療は希望すればだれでも受けられるわけではなく、医師が可能と判断した場合に受けられる。西城さんは、生活習慣病で症状が安定し、重症でないと判断できる患者にオンライン診療をしている。
「胸が痛いなど、症状から明らかに検査が必要だと思われる場合は、オンライン診療に適さない」と西城さんは説明する。
血液や血圧の検査データに加え、対面で聴診などをすることで、新たな病気が見つかる可能性もある。新しい薬を処方した後も、副作用が出ていないか確認するためにも対面での診察が必要になるという。
厚労省は8月、オンラインに電話も加えた時限的な「遠隔診療」に対応する医療機関の施設数などを公表した。4月下旬で1万812施設、5月末には1万5226施設と増加。その後は大きく増えていない。
■「対面」と併用、効果的
総合診療医や家庭医らが参加する日本プライマリ・ケア連合学会はオンライン診療に適していない症状として、重度や急性発症の腹痛や息苦しさ、胸痛、アレルギー反応などをあげている。緊急性が高く、治療が必要になる可能性が高いためだ。
外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)の黒木春郎院長は「初めての患者のオンライン診療は、患者の状態がわかっていないため、とくに慎重にならないといけない」と指摘する。
一方、患者にとっては医療機関を受診しやすい、医師にとっては画面を通して患者のふだんの生活の状況がわかる、などの利点もあるという。
9月からは、時限措置とは別に、薬剤師による服薬指導も、全国的にオンラインでできるようになった。これまでは福岡市など国家戦略特区に限り認められていた。
ただし、吸入薬や自己注射薬などは、正しく使うために対面での説明が重要だ。日本薬剤師会の田尻泰典副会長は、服薬指導は対面が基本と指摘。「薬を理解しているか、相手の表情や反応でわかることがある。オンラインだとわかりづらいこともあると思う」という。
新型コロナはすぐには収束しないと考えられる。厚労省も時限措置を恒久化する検討を進める方針を示している。
オンライン診療に詳しい祐ホームクリニックの武藤真祐理事長は「コロナ禍でも患者に医療を継続して届けるのに、オンライン診療は有効だったと思う。今後も対面での診療と組み合わせ、効果的な診療ができる形にしていく必要がある」と話す。