https://mainichi.jp/articles/20210108/k00/00m/040/114000c
コロナ給付金 なぜ私たちは「線の外側」なのか 朝鮮大学校生の訴え
新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減少するなど、学生も厳しい生活を余儀なくされている。政府は困窮した学生への支援策として最大20万円を支給しているが、全ての人に公平に行き届くわけではない。中でも厳しい状況に立たされているのが、朝鮮大学校に通う在日朝鮮人の学生たちだ。支援の枠外に置かれ、申請すらかなわない状況が続く。これは妥当な線引きなのか。
「各種学校」理由に申請認めず
「失望と怒りがこみ上げてきます」
東京都小平市にある朝鮮大学校のキャンパス。政治経済学部で学ぶ4年生の李(リ)さん(21歳、女性)が深いため息をついた。バッシングやヘイトスピーチが懸念されるため、名前は名字まで、顔出しはしないという条件でインタビューに応じてくれた。
コロナ禍を受け、政府は昨年5月、大学生らの学習環境を支えるための「学生支援緊急給付金」を創設した。バイト収入が5割以上減り、学費の支払いが難しくなった学生のうち住民税非課税世帯に20万円、それ以外の学生には10万円をそれぞれ支給している。対象は国公私立大(大学院含む)▽短大▽高等専門学校▽専門学校▽法務省告示の日本語学校――で、制度設計を担った文部科学省は「最大限枠を広げた」と強調する。約530億円の予算を確保し、留学生を含む対象者を計約43万人と見込んでいる。
だが、この中に朝鮮大学校の学生は入っていない。「各種学校」に分類されることを理由に、政府が申請自体を認めていないからだ。李さんの怒りの矛先もこの「門前払い」に向かう。「コロナによる不安や悩みは私たちも日本人の学生も変わらないはずです」。朝鮮大学校によると、実際に学費の支払いが滞っている学生も出ているという。
「各種学校」でも支払われるケースはある
文科省は給付金の支給にあたり、「一定の線引きは必要」として各種学校を対象外にしたと説明している。高等教育局の担当者は取材に「緊急時なので個々の教育機関を審査する時間的余裕はなく、『各種学校』としてひとくくりで判断しています。朝鮮大学校だけを認めて支給すると、他の各種学校に説明がつきません」と話す。
一方、日本語学校は法務省の告示機関であれば設置形態は不問で、各種学校として運営しているところも含めて支援対象になっている。この点について先の担当者は「幅広く日本で学ぶ学生を支援する観点から、日本語学校については『別建て』で判断しています」と、留学生を救済する措置であることを強調した。留学生は「成績上位3割以内、出席率8割以上」という要件を課されており、給付金を得るためのハードルは高いが、それでも門戸は開かれたことになる。
一般的に各種学校は予備校や料理学校、自動車学校などが該当する。朝鮮大学校はこれらと同列の位置付けのまま支援からこぼれ落ちた格好となった。
8学部を擁する民族教育機関の頂点
民族教育機関としての朝鮮学校には、幼稚班を皮切りに初級部、中級部、高級部と段階がある。その頂点に位置する朝鮮大学校は1956年に創立された。大学としての認可は受けていないが、政治経済▽文学歴史▽経営▽外国語▽理工▽教育▽体育▽短期――の計8学部を持つ。朝鮮学校の教員養成など「在日社会への貢献」を旗印にしつつ、近年は日本の一般企業に就職したり、国立大の大学院に進学したりする学生も増えている。スポーツも盛んで、サッカー・Jリーグでプレーする鄭大世(チョン・テセ)選手や朴一圭(パク・イルギュ)選手も卒業生として知られる。
東京出身の李さんは初級部から朝鮮学校に通い、大学校への進学にも迷いはなかったという。朝鮮学校で学ぶ意義を「朝鮮半島の言葉や歴史を知り、堂々と生きていくための軸を作ること」と語り、これまでの学びを通して「自分のアイデンティティーを深く理解することができました」と強調する。その経験を伝えるため、卒業後は朝鮮学校の教員になることを決めている。
拉致問題で強まった政治的圧力
ただ、こうした生き方は、必ずしも日本社会の中で理解や共感を得ているわけではない。
2002年に北朝鮮が拉致問題を公式に認めて以降、朝鮮学校に対する批判は常態化し、学生らはたびたびヘイトスピーチの標的にもされてきた。政治的な圧力も強まり、自民党政権は13年に高校無償化の対象から朝鮮学校を除外。これに対して学校側が各地で国を相手取った訴訟を起こしたが、いずれも棄却されている。19年から始まった幼保無償化でも、やはり幼稚班はその恩恵にあずかれないままだ。