https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/36599
唾液で老化を測れることが判明
ポイント
2つの異なる年齢層から採取した唾液検体を用いて、加齢に伴う唾液中の成分の変化を調査した。
扱いが困難である唾液より、検体中に99種類の代謝物を同定した。
99種類の代謝物中21種類において、2つの年齢層の間で量が異なっていた。
年齢層によって量が異なる代謝物の中には、味覚や筋肉の活動に関連するものがあり、加齢によって味覚や嚥下能力が低下することが示唆された。
研究チームは、唾液からフレイル(虚弱)や認知症など、高齢者に多くみられる疾患の早期発見ができるようになるのではないかと期待している。
プレスリリース
沖縄科学技術大学院大学(OIST)G0細胞ユニットの研究チームは、27〜33歳と72〜80歳の年齢層の人から任意で採取した唾液を用いて、ヒトの唾液に含まれる代謝物を包括的に解析しました。代謝物は、私たちの体内で起こる化学反応の中間生成物や最終生成物で、エネルギー産生、消化、成長、細胞の健康などに関係していると言われています。研究チームは、唾液検体中に99種類の代謝物を同定したことをscientific reports誌に発表しました。本研究の注目点は、これらの代謝物のうち21種類の量が2つの年齢層間で異なっていたことです。
「加齢に伴う唾液の変化については、これまで包括的に研究されたことはありませんでした」とOISTのG0細胞ユニットを率いる柳田充弘教授は説明しています。同ユニットでは、すでに血液や尿を調査し、いくつかの代謝物の量がフレイル(虚弱)や認知症と関連していることを発見しています。このような指標によって、早期の診断や治療介入が可能になると柳田教授は言います。「加齢に関連するフレイル(虚弱)や認知症は、患者さんの日々の生活を非常に困難にします。また、唾液は口腔内の健康とも密接な関係があり、口腔機能が正常でないと、食べ物を摂取することが難しくなり、生活の質を大きく損ねることになります。この研究を通して、高齢者の方々によりよいサポートが提供できるようになることを願っています。」
検体について、唾液は簡単に採取できることから、沖縄県内の27人の参加者が自宅で採取した検体を実験室で解析しました。一般に、唾液中に含まれる代謝物の濃度は、血液や尿に比較して非常に低いため、検出するのは困難です。しかし、研究チームは包括的な方法を用いて99種類の代謝物を同定しましたが、その中にはこれまで唾液中に確認された例が報告されていなかったものも含まれていました。また、唾液には生物学的老化を反映する情報が含まれていることも明らかになりました。高齢者では、抗酸化作用、エネルギー産生、筋肉の維持などに関連する20種類の代謝物の量が若年者よりも減少していたのに対し、1種類の代謝物は増加していたという事実が明らかになりました。
本論文の筆頭著者である照屋貴之博士は、次のように説明しています。「エネルギー産生に関連する代謝物であるATPの量が、高齢者では1.96倍に増加していることは興味深いことです。これは、高齢者のATP消費量が減少しているためと考えられます。また、減少した代謝物の中には味覚に関連する2つの代謝物が含まれており、高齢者では味覚が低下していることが示唆されました。さらに、嚥下などの筋肉の活動に関連する代謝物も含まれていました。唾液中に見つかったこれらの加齢に関連する代謝物は、ヒトの加齢に伴う口腔機能の低下を反映した代謝ネットワークを明らかにしています。」