「強い」経済は共産党にとって資本主義批判という点から見れば妥協か?
本田_______________
志位さんのおっしゃった「強い経済」という方向が、問題含みの資本主義を延命することを暫定的に主張してしまうことになるのかもしれないと思いながら、いまの資本主義が滅ぶとか、資本主義を変えていかなきゃいけないと思っていない人たちに、共感・賛同してもらうためには、こうした打ち出しが必要だとも感じます。
「やさしくて強い経済」というスローガンを打ち出すとおっしゃったのは、日本共産党の資本主義に対する批判という点からみれば、相当主張を曲げていただいたのではないでしょうか。
志位_______________
いやいや、そうじゃないんですよ(笑い)。マルクスの『資本論』のなかに、とても印象的な叙述があるんです。
19世紀のイギリスで、人類初めての工場法ができました。
とくに1848年から50年の時期に、「1日10時間」に労働時間を規制する工場法がつくられた。
マルクスは『資本論』のなかで、いろいろな角度から工場法の歴史的意義に光を当てているのですが、工場法がつくられる前のイギリスというのは、長時間労働がまったく野放しですから、労働者階級は肉体的にも精神的にも健康を失ってしまう。
児童労働も野放しですから、子どもの成長にも障害がつくられる。
そのことによって、イギリスの資本主義の全体が行き詰まっていくのです。
工場法をつくってどうなったか。
マルクスは、『資本論』で、イギリス資本主義の「驚くべき発展」が起こったといっています。
つまり、工場法によって、労働者が肉体的にも精神的にも健康を取り戻して、そのことが社会全体に活力をもたらしたと。
マルクスは、そのことをすごく肯定的にとらえているわけです。
そういう意味での「強い経済」をつくっていくということは、私たちの主張を曲げるわけでもないし、反対に、私たちがめざすものなのです。
資本主義が健全な発展をとげれば、それだけ先の社会に進む豊かな条件もつくられますから。
本田_______________
もう少しお伺いしてみたいと思ったのは、日本の経済や企業が、グダグダな状態にあることにたいして、先ほどおっしゃった労働法制、社会保障、税制での改革が必要だというのは賛同するのですが、それだけでこんなにグダグダになってしまった経済、企業が息を吹き返すのでしょうか。
ちょっと心配です。
志位_______________
三つは例示的にいったもので、それに限るわけではありません。
ちょっと次元が違うのですが、私たちは、気候危機の打開ということも打ち出しています。
日本共産党は、この問題で昨年、「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」というのを提案しました。
この中で、2030年度までにCO2を最大60%削減しよう、それを思い切った省エネと再エネで実現しようと、かなり大胆な計画を提案しています。
この提案そのものが、日本経済に活力と強さをもたらすことにもなります。
「2030戦略」では、この道を進めば30年までに、254万人の雇用が増え、累積205兆円のGDPが増えるという試算も紹介しました。
社会システムの大規模なチェンジをやることは、経済に活力と強さを取り戻していく道にもなることは間違いありません。
それからジェンダー平等という大問題があります。
ジェンダーの問題というのは、あれこれの一分野の問題ではなくて、社会のあらゆる問題に「ジェンダーの視点」で対応しなければならないというのは、国連などでも当たり前の大原則になっているわけです。
たとえば、本田さんの著書でも指摘されていますが、男女の賃金格差の問題です。
昨年の総選挙でもずいぶん訴えたことですが、日本の男女の賃金格差は、生涯賃金で1億円にもなる。
そこには働く女性の約58%が非正規雇用という問題があります。それから、多くの女性が「一般職」にしかなれないという問題があります。
そして、ケア労働の主な担い手が女性になっていますがその賃金が低いという問題もあります。
これは一つの事例ですが、ジェンダー平等の社会をつくることが、本当の意味での日本の社会や経済の活力を取り戻すことにもなる。
全部がつながっていると思うのです。
新春対談
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2022-01-01/2022010101_01_0.html