ロシア軍の攻撃を受けるウクライナを逃れて命からがら隣国へと渡る難民たちが、国境などで人身売買の標的にされる「新たな危機」に直面している。難民の大多数は女性や子供で、身寄りや付き添いもない場合が多く、犯罪組織に狙われやすい。国連機関は、越境時の難民保護の強化を各国に呼び掛けている。
ウクライナ国境警備隊は今月半ば、西部チェルニウツィの検問所で、ルーマニア側に赤ちゃんを連れ出そうとした中国人の男2人を拘束したと発表した。男たちは必要書類を所持せず、赤ちゃんの出自も答えられなかったといい、戦争の混乱に乗じた連れ去りの疑いが持たれている。
ポーランドでも同様の事例が報告されるなど、ウクライナと接する各国の国境では、難民を狙った人身売買組織による犯罪が横行しているとされる。モルドバを拠点に東欧の人身売買問題に取り組む米団体「ヒーローズ・インターナショナル」のグレッグ・モンテラさんは、中国人拘束の例は「氷山の一角にすぎない」と言い切る。
モンテラさんはウクライナ侵攻開始の2日後、モルドバ南部パランカの国境付近に駆け付けた。難民の受け入れ態勢が全く整っていない時期で、そこでは大勢の難民が途方に暮れていた。すると、近くに止まっていた車の中から男たちが「早く乗って。安全な場所に連れて行くから」と声を掛け、難民を乗せて走り去ったという。男たちが誰だったのか、人々がどこに連れて行かれたのか、今となっては知る術はない。
パランカでは現在、国連機関やNGOが支援を行い、難民の移送バスも定期的に運行している。迎えの車も登録が必要。しかし、こうした措置が不備な他の国境では、待ち構える犯罪者が難民をだまして連れ去ったとしても「追跡はほぼ不可能」(モンテラさん)な状況だ。
貧しい東欧の国々では性的搾取の目的で人身売買が広く行われ、社会問題となってきたが、戦争により事態の一層の深刻化が懸念される。国連児童基金(ユニセフ)は「ウクライナの子供たちは人身取引と搾取のさらなる危険にさらされている。犯罪者は大勢(の難民)が移動する混乱を利用しようとしている」と警告を発した。
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