https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210917/k10013262271000.html 「あの髪型、坊主にされました」美容師が始めた“校則改革”
遠方からカットに来てくれた男子高校生。その子が丸刈りになって現れたのは1週間後のことでした。さらに…。
「髪型変えないと推薦取り消すと脅かされた」
「地毛だと証明書を書いたのに黒く染められた」
届いたのは1000件以上の悲痛な声。子どもたちが自分らしく輝けるように。いま“校則改革”に取り組む美容師がいます。
厳しい「頭髪規定」に涙する生徒たち
美容師 米田星慧さん
東京 渋谷にあるメンズサロンの美容師、米田星慧さん(28)。
高校生や大学生を中心に全国の若者から予約が相次ぎ、いわゆる“カリスマ美容師”と言われる米田さんが、「校則」と向き合うことになったきっかけは6年前のあることばでした。
「米田さんに切ってもらった髪型、校則違反だからって、坊主にさせられました…」
1週間ほど前に、体育祭があるからと、わざわざ新幹線でカットに来てくれた男子生徒。
「校則があるので耳や襟足にかからないように短めに。でもかっこよくしてください!」
そう頼まれた米田さんが仕上げたのは、サイドを短めに刈り上げた“ツーブロック”スタイル。
しかし、再び訪ねてきた男子生徒は、学校の「ツーブロック禁止」という校則によって、髪を切らされたことを泣きながら訴えてきました。
実はこの頃、同じようにツーブロックにした子たちが校則違反という理由で、泣く泣く切り直しに来るケースが相次いでいました。
ツーブロックは、会社員やスポーツ選手からも人気のスタイル。それがなぜダメなのか、学校に問い合わせましたが「部外者だ」と取り合ってもらえなかったそうです。
米田星慧さん
米田さん
「自分は校則の緩い学校に通っていたので初めは『そんな校則あるのか…』と、にわかに信じがたかったです。自分らしい髪型にすることで、コンプレックスを解消したり、個性を表現できたりする。少しでもそれを手伝うことができたらと美容師の仕事をしてきただけに、怒りを感じましたし、日本の教育に絶望的な気持ちになりましたね」
“人生を後押しする髪型”と“諦める生徒たち”
「かっこよくしてもらえて、人生で初めて告白する勇気が出ました」
「周囲になじめなくて、自分を好きになれなかったけど少し自分に自信が持てました」
これまで美容師としてカットひとつで変化していく若者たちの様子を目の当たりにし、髪型には人生を後押しする力があると実感してきただけに、それを押し込めるような校則の「頭髪規定」は受け入れられないと考えました。
ただ同時に、毎月200人以上の髪を切る中で感じていたのは、生徒たちは校則に対して不満はあるものの「我慢するしかない」「変えられない」と諦めているということでした。
“お客様”が困っている…
米田さんは美容師として校則を変えることを真剣に考え始めました。
「4時間反省文」「水道水で洗髪」1100件の悲痛な声
その後、「校則改革プロジェクト」と名付けて活動を始めた米田さん。
まずは広く実態を把握したいとアンケートをSNS上で呼びかけたところ、2週間で1100件もの声が集まりました。
「ツーブロックで登校したら、バリカンで坊主にされて4時間反省文を書かされた」
「ツーブロックにしただけで、大学推薦を取り消すぞと脅された」
「ワックスをつけて登校したら、水道水で洗い流された」
これまで米田さんのもとへ駆け込んできた生徒たちの学校と同じような頭髪規定が、全国各地で存在し、行き過ぎた指導の実態も浮かび上がりました。
さらには…。
回答を寄せた生徒
「私は祖母がロシア人のせいか髪色が暗めの赤毛に近い色をしています。高校入学時に地毛証明書を親と一緒に提出したにもかかわらず、入学1か月後に黒に染めさせられました。当然根元が伸びてくるたびに染めさせられます。いま髪が傷みすぎて縮れてスカスカです。洗うたび、乾かすたびに怖いくらいに毛が切れます」
回答を寄せた別の生徒
「憧れのスタイリストさんと同じウルフカットにしてもらいました。襟足は長いですが、校則で禁じられている、ワイシャツの襟にかかるほどではないにもかかわらず、先生に『長い気がするから切ってこい』『今どきそんな髪型はない。将来ビジュアル系か?』と笑われもして、とてもつらかったです。それにカットして下さったスタイリストさんをばかにされているような気がしてすごく悔しかったです」
仕事を終えた夜、一つ一つの声に目を通す中で、やりきれない思いになったと言います。