中国共産党が“善意”で進めるジェノサイド
——近年の中国社会に顕著なのが「安定した日々を送りたい」(穏定)という多数者の望みが、政府の強権的な政策を後押しする構図です。たとえばロックダウン下の上海で老人や妊婦が危険にさらされても、ゼロコロナ政策は大多数の中国人の希望には合う。「ウチにコロナ来ないからOK」ということです。ウイグル族が強制収容される職業訓練センターも、仮に施設の実態を知っても「テロリストが改造されるなら別にいいや」と考える人が相当多くいるはずです。
【熊倉】新疆の少数民族弾圧は、2010年代の中国世論の圧倒的な支持の下で展開されたといっていいんです。しかも2010年代なかばまでは、「反テロ人民戦争」とテロリストに鉄槌を下す雰囲気だったのが、やがて教育なり職業訓練なりを施そうとなる。
しかも中国の文脈では、これは“善意”の行為なんです。中国での社会的上昇の道を与えるため中国語を教えてあげる、中国人として生きられるよう職業訓練をしてあげる。こうした中国内地の論理が、多数派の中国人(漢族)自身の間ではなんら問題にされてない、このこと自体が大きな問題です。
——ナチスのユダヤ人迫害と、中国共産党のウイグル迫害の最大の差異は、後者は“善意”でやっていることです。ゆえに“いいこと”を嫌がるウイグル族は潜在的なテロリスト予備軍として監視と改造の対象になるし、“いいこと”を悪く言うCNNやBBCのような海外メディアは「中国人民の感情を傷つける」敵だという理屈になるのですが。
【熊倉】文化的ジェノサイドについては、中国語教育が現地語教育をなかば淘汰とうたする現象があります。中国の内地から、新疆に派遣された国語(中国語)の教員が中国語を教える。現地の中国語が上手くないウイグル族教員には失職する人も出ます。少数民族地域で民族語教育をおこなうことは少数民族区域自治法が認めているはずなのですが、現実には中国語の国語教育がおこなわれる。
——おこなっている側は“善意”でしょうね。貧しい辺境の、“テロリスト”の誘惑にさらされている少数民族に、祖国の言語を教えて偉大な中国の素晴らしさを伝える。たぶん、現場の教員たちはめちゃくちゃ“いい人”ばかりだと思います。中国共産党の若手党員にありがちな、みんなから好かれる真面目で働き者の青年たちでしょう。
【熊倉】その通りです。漢族のあいだでは、みんなから歓迎されるタイプ。そんな彼らがよく使う言葉が「援助」です。何も産業がない辺境を「援助」してあげていると。その言葉のグロテスクさについての自覚は決してないわけです。
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