そもそもクリプトは「仮想通貨」と呼ばれていたものだ。しかし、これにも無理があった。通貨の定義は「法律の定めによって一国内に流通する貨幣」(オックスフォード辞典より)となっている。国が発行しておらず、法律の定めもない、どこの機関も価値を保証していないクリプトは明らかに円、ドル、ユーロなどの「通貨」とは違う。
もっと広い定義だと、通貨は「流通手段・支払い手段として機能している貨幣」(Goo国語辞書)となるが、クリプトはこれにも当てはまらない。商品やサービスの買い物にはほぼ100%使えないから。一部の企業は受け付けるというが、それはTカードやポンタカードとか、ポイント制度にもいえること。マイナンバーポイント事業、通称「マイナポイント制度」もあるが、クリプトはそれよりもマイナーだ。条件つきで、一部だけで使えるものは通貨ではない。
クリプト関連の企業はスポーツチームのスポンサーになったり、スタジアムに名前を付けたり、テレビCMを流したりしているが、その契約金の支払いはドルだったり円だったりするはず。クリプトの専門業者でもその「通貨」で実体経済に参加できているわけではない。
仮想空間でしか使えないお金という意味で「仮想通貨」と言っているのならかまわない。ゲームの中の交換手段としては成り立つからね。同様に、斎場でしか使えないコインとか、コスプレ・パーティーでしか使えないコイン、方角的に運気が上がるような間取りでしか使えないコインとかもあっていいだろう。......もうお気付きでしょうか? それぞれ「火葬通貨」、「仮装通貨」、「家相通貨」になる! お後がよろしいようで。
G20ズのみなさんのおかげです
クリプトの通貨としての弱点は、普及率の低さだけでもない。脱税にも、犯罪組織の闇取引にも、マネーロンダリングにも使われやすい上、ハッキングの対象としても狙われやすいため、「通貨」としてとても脆弱だ。
そのため、通貨としての印象を与えないよう、2018年、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20サミット(正確には財務相・中央銀行総裁会合)の声明では「仮想通貨」という呼び方を止めて「暗号資産」という呼称を用いている。こうした国際的動向に準じて日本の国会でも仮想通貨から暗号資産にクリプトの呼称を変更することにした。
はい、すみません。先ほど「暗号資産」と言っている日本のメディアや政府が無思慮だと言い切ったが、そうではない。「暗号資産」の呼び方を公認し、普及させたのがサミットの皆さん。彼らの責任だ。まあ、「仮想通貨」をやめたのは正解だと思うけどね。スーパーチェーン「サミット」のレジでもクリプトは使えないし。
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「仮想通貨」も「暗号資産」も適切な表現ではない。そこで僕は「クリプト」をぜひ日本にも広めたい。これはcrypto-currency(暗号通貨)やcrypto-asset(暗号資産)の略ではあるが、英語圏ではcrypto(暗号~)と、誤解を招きかねない後半の部分を切り落として使うことが多い。ぜひ正式名称になってほしい。通貨だとか、資産だとか、そんな不正確な印象を与えないし、「暗号~?」という、「何だろう感」を残すあいまいさがちょうどいいと感じる。
日本には、よく聞くけど意味があまりわからないカタカナの表現が多い。レガシー、レジュメ、リテラシー、アジェンダ、インフォームド・コンセント、インボイス、ビートゥービー、ロングコートダディなどの用語は、このコラムの読者なら全て熟知していると思うが、ピンとこない人が多いはず。クリプトもそんな位置付けで十分だと思う。
人は「暗号資産」と聞くと老後の生活資金のためにあてにしようと思ったり、「仮想通貨」と聞くと円やドルの代わりに使えると思ったりするかもしれない。でも、「クリプト」と聞いて、勘違いのもとでリスキーな冒険に挑戦しようとする人はいないだろう。それでいい。いや、むしろそれがいい。
クリプトは何なのか、どうしても知りたい方は調べればいい。調べてもだいたいわからないけど。