生まれつき“持っている人”にはわかってもらえない痛み
「親戚はみんな笑っちゃうぐらい貧困。伯父も伯母も全員中卒で、非正規雇用を転々としています。お年玉をもらったこともないし、“高校に行くのは贅沢なこと”と言われて育ったので、長い間、“昭和には大学という制度がなかったんだな”と思っていました」
そう話すのはライターとして活躍するヒオカさんだ。子どもの貧困は教育格差を生み、それは年収の差につながって、社会的損失は40兆円に及ぶとも言われる。貧困問題の当事者である彼女に、日本の貧困層事情を聞いた。
◆舗装された道路を走っていく人と、穴を埋めてから歩き出す人
「貧乏なら高卒で働けよ」「おまえだって貧困を飯の種にしてるんだろう?」ヒオカさんが自らの体験を寄稿すると、共感を得る一方で、ネットにはたくさんの誹謗中傷コメントが溢れる。
「 “俺も貧乏だった。抜け出せないのは努力が足りないからだ”というのもめっちゃ多いです。だけど貧困層にはものすごいグラデーションがあって、スタートラインが同じ人なんていません。
親がバイト代を使い込んだり、進学させなかったり、社会人になっても無心に来たり、DV問題も。背負っているものが違うので、自分のケースと他の人の事情は全く関係のない話です。“真面目に働いていればそんな状況には陥らない”と言うなら、エッセンシャルワーカーの賃金の低さはどう説明するんだろうとも思います」
世の中には、予め舗装された道路をサッと走っていく人と、道に空いた穴を埋めてからでなければ歩き出せない人がいる。ヒオカさんの抱くイメージは、そんな感じだ。その穴の数や深さは、人それぞれに違う。
初期投資ができず、選択肢がないゆえに嵩んでくる“貧困税”
貧困による教育格差は10歳ごろから偏差値に現れる。学力の差は自己肯定感の欠如や自信喪失につながり、進学率にも影響を及ぼす。それは将来的な収入格差にも影響し、親になっても再び貧困になるという負の連鎖を引き起こす(2017年 公益財団法人 日本財団の調査より)
埋めなければならない穴は至る所に空いている。例えば中高時代の部活にしても、ユニフォーム代が払えずにあきらめる人がいる。部活をしないと内申書に書き込める要素が少なくなり、それは進学先や、将来的には就職活動にも影響してくる。
「面接で、なぜ運動部に入らなかったのかと聞かれることも多いけど、部活ができない人がいることを、みんな知らないんですよ。大学でも、友達は“とりあえず公務員試験受けとこう、教員免許取っておこう、ボランティアもやっておこう”と、履歴書に書けることをどんどん貯めていくけど、それは親が学費や生活費を払ってくれて、バイト漬けの生活をしなくていいからできることです」
貧しい人は初期投資ができず、初期費用も持てない。5キロの米を買うお金がないからコンビニのおにぎりを買う。安いものを買えば割高になるとわかっていても生活の全てにおいて選択肢がなく、結局損をする。こういう事象は“貧困税”と呼ばれ、現状からの脱出を難しくしている。
発展途上国で働きたいという夢を持ち、国際関係を学べる大学に入学したが、劣悪な生活環境から体力に自信を失い、海外に行く費用も捻出できず、夢は潰えた。それでも、親に進路の邪魔をされなかったのは恵まれていたとヒオカさんは言う。大学受験は国公立一択。奨学金が降りる前に入学金を払わなければならず、母親は借金をしてお金を工面してくれた。家庭の援助はそこまでで、以降の費用は全部自分で賄った。奨学金の返済は、これから先も果てしなく続く。
実家を出ても一人暮らしをする余裕はなく、キャリーケースひとつでシェアハウスを点々とした。
「シェアハウスは家具などの初期費用がかからないけれど、家賃に比例して環境や民度は下がります。それで身体を壊し、結局医療費が嵩んでしまったり。1個歯車が狂うとドタドタと総崩れする、そんなループが続いていく感覚がありました」
◆非課税世帯への5万円給付…“救済されるべき人”と“そうでない人”の選別が始まっている
略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/9fe80efa4eef9d05e3e797055f3bcdd8e3bcd988