横浜市が70歳以上の高齢者を対象に発行する「敬老パス」が今月、紙製からICカードに変更になったが、その利用方法を巡って混乱が生じている。
JRが発行する「Suica(スイカ)」などの交通ICカードとは異なり、列車の自動改札機で使用できないことが一因だという。一体どういうことなのか。
ICカードの運用が始まってから4日後の今月5日夕の市営地下鉄関内駅(中区)。
改札から数メートル離れた場所で、「敬老パス」と大きく書かれたパネルを持った市シルバー人材センターの案内役の男性が立っていた。
そばにはパス専用の読み取り機が置いてある。改札の周囲では読み取り機を探すようなそぶりを見せたり、駅員にパスの利用方法をたずねたりする高齢者が複数いた。
「駅員がいる改札の窓口になぜ読み取り機を設置しないのか。効率の悪いやり方だ」。
読み取り機を見つけられずにいた横浜市南区の男性(71)は憤った。
実はこのパスは、まず専用機器に読み取らせたうえで、駅員に手で見せて改札を通過する必要がある。
市によると、パスを自動改札機にタッチして通過しようとする利用者が後を絶たないほか、
パスと交通ICカードが一緒に入った財布などで自動改札機にタッチし、交通ICカードから誤って料金が引き落とされるトラブルも起きた。
市には利用方法に関する問い合わせが相次いでいるという。
そもそも市がICカード化を進めた目的は、パスの利用実績を正確に把握し、交通事業者に支払う負担額を適正化することだった。
利便性の向上を狙ったものではなかったのだ。
「新たなパスを『ICカード』と呼んでいるため、利用者が交通ICカードと混同してしまうのは仕方ない。
自動改札機で使えるようにするのは技術的に難しく、車椅子の利用者がいることも考慮すると、改札のすぐそばに読み取り機を設置することは混雑や安全面の観点から難しい」。
市交通局の担当者はこう言って悩ましげな表情を浮かべた。
市は今後もホームページなどで、パスが自動改札機で使用できないことなどの注意喚起を続けるとともに、
3カ月程度は利用者が多い市営地下鉄の20駅にパネルを持った案内役を配置する方針だ。
この担当者は「なるべく早く慣れていただけるように周知を徹底していきたい」と話す。