>>2 脳は密集した神経細胞のダイナミックなネットワークでできており、神経細胞は末端部の「シナプス」を介してコミュニケーションをとっている。そのシナプスは、人間が学習するにつれて変化する。
「シナプスは基本的に、神経細胞同士が会話し、脳のある部分から別の部分へ情報が伝達される仕組みを担っています」とランカスター氏は説明する。
コミュニケーションが頻繁に行われる神経細胞にはシナプスが多いが、コミュニケーションが少ない、あるいは全くない神経細胞はシナプスが少ない。「ミクログリア」と呼ばれる免疫細胞によってシナプスが刈り込まれるためだ。
ヒトの脳にはミクログリアが細胞数の17%を占める部分もある。ミクログリアは脳内を移動して死んだ細胞を食べたり、不要なシナプスを除去したりすることで、脳内の清掃作業を行っている。
シナプスの刈り込みは、胎児や乳幼児などの発達中の脳で最も活発に行われるが、健康な脳では生涯にわたって継続され、新たな記憶を形成したり、不要になった記憶を消去したりするために必要だ。
また、脳が損傷から回復する際にも、シナプスを強化して失われた能力を再学習したり、機能しなくなったシナプスを除去したりするのに必要不可欠だ。
オリベイラ氏らは、新型コロナウイルスがシナプス結合を直接刈り込むのではなく、ミクログリアを活性化していることを、脳オルガノイドを使って突き止めた。
「新型コロナウイルスに感染後、ミクログリアがどういうわけか免疫反応を起こし、通常よりも多くのシナプスを食べてしまうことを発見しました」とサムディアタ氏は言う。
シナプスの過剰な刈り込みは有害になりえる。統合失調症などの神経発達障害や、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患との関連性が指摘されている。
新型コロナウイルス感染後の脳オルガノイドで起こるようなシナプスの過剰な除去がヒトの脳でも起これば、必要不可欠な結合が破壊されてしまうかもしれない。
また、新型コロナに感染した人が長期にわたって神経症状に苦しむ理由は、この現象によって説明できる可能性がある。