昆虫が「痛み」を感じているという証拠の増加が動物福祉にもたらす影響とは?
世界では毎年1兆匹以上の昆虫が、食物や動物の餌として命を奪われています。これまでは昆虫を除く多くの動物が痛みを感じることができると認識されていましたが、近年は昆虫も痛みを感じていることが研究により明らかになっています。
さらに、最新の調査結果を受け、研究者の中には農薬や化学実験などから昆虫を保護すべきという声も上がっています。
Insects may feel pain, says growing evidence ? here’s what this means for animal welfare laws
https://theconversation.com/insects-may-feel-pain-says-growing-evidence-heres-what-this-means-for-animal-welfare-laws-195328
従来の動物福祉の議論や法律は、寿命の短さを理由に昆虫を除外してきました。しかし、多くの研究によって昆虫が痛みを感じるということが明らかになりつつあります。
昆虫が「痛み」を感じている可能性があるという研究結果
昆虫を含めたほとんどの動物は反射のような反応を示すことは長年知られていましたが、動物が暑さなどの潜在的に有害な刺激に反応したとしても、必ずしも人間のような「痛み」を感じているとは考えられていませんでした。
マルハナバチに加熱した砂糖水と非加熱の砂糖水を与えるという実験を行ったところ、砂糖水が同じ濃度の場合、マルハナバチは加熱した砂糖水を避けることが明らかになりました。
しかし、加熱した砂糖水が非加熱の砂糖水よりも濃度が高い場合、マルハナバチは加熱した砂糖水を選ぶことも確認されています。
この反応は単なる反射によるものではなく、マルハナバチが痛みを感じていることを(PDFファイル)示唆しています。また、マルハナバチは加熱した砂糖水と非加熱の砂糖水を覚えており、記憶を頼りにどこから砂糖水を得るか決定していることも確認されています。
昆虫の痛みの証拠を評価するための枠組みには8つの(PDFファイル)基準があり、動物の神経系が痛みをサポートできるかどうか、およびその行動が痛みを示しているかどうかを評価します。
ハエとゴキブリは8つ中6つの基準を満たしているため、これは痛みを感じていることの「強力な証拠」になるとクイーン・メアリー大学で行動神経科学について学ぶマチルダ・ギボンズ氏は指摘。
また、8つ中4つの基準を満たすミツバチ・ハチ・アリ、8つ中3つの基準を満たすチョウ・ガ・コオロギ・バッタは、痛みを感じる「実質的な証拠」を持っているとしています。
カブトムシは8つ中2つの基準しか満たしていませんが、1つの基準を満たさない昆虫は存在しないそうです。
なお、イギリスでは8つ中7つの基準を満たすタコが感覚を有する生物として認められたため、2022年に動物福祉(感覚)法の適用範囲に含められました。
昆虫が痛みを感じているという研究結果を受け、一部の研究者たちは動物福祉法に昆虫を含めることを推奨しています。
痛みを感じていることを人間に直接伝えることができない昆虫のような存在について、動物全体に対して一貫した基準を設けることで、昆虫を家畜やペットと同じように扱うことが重要だと研究者は主張しているわけです。
農薬は毎年何兆もの野生の昆虫の命を奪い、数日にわたってゆっくりと殺される場合もあります。
そのため研究者たちは、農薬が野生の昆虫にとって福祉上の大きな懸念事項であるとして、苦しみを最小限に抑えつつ昆虫をより早く殺すことができる人道的な農薬の開発を奨励しています。
https://gigazine.net/news/20221215-insect-pain-animal-welfare/