https://www.sankei.com/article/20160119-PFYZMVJNCNJGBNM6ZCEJ3XT7EE/3/ 西川秀和さんは、U2撃墜で混乱する当時の米政府の機密文書などを入手し、
平成17年に論文「アイゼンハワー大統領のレトリック-U2事件を事例として-」を発表した米大統領研究のスペシャリスト。
もし機体(U2)が落ちても、空中分解するか墜落の衝撃で機体は破壊される。自爆装置も埋め込まれている-。
「つまり偵察行為がばれることはない。こんなCIAの見解を信じたアイゼンハワーはソ連との交渉で窮地に陥るのです」。
西川さんが米ソ危機の背景を語り始めた。
U2が撃墜された当初、「ワシントンは詳細をまったく把握していなかった」と西川さんは米政府の機密文書の内容から明かす。
西川さんによると文書では、「偵察機1機がおそらく墜落した模様」と連絡を受けたアイゼンハワーは
「万が一、ソ連領内に落ちた場合、ソ連はいつものヤリ口でこれを非難…、恐慌状態に近い極度の興奮が世界中を包むだろう」と答えたという。
映画ではパワーズらU2のパイロットたちは偵察任務に際し上官から、もしソ連領空で撃墜された場合、
機体の自爆装置を作動させ、毒針で自殺するよう指示される場面が描かれる。
これも事実で、CIAはアイゼンハワーに、U2が墜落した場合、機体は損壊し、パイロットが捕虜になることはない、と伝えていた。
しかし、パイロットは生きたままソ連に拘束され、機体も自爆装置が作動しないまま墜落、ソ連に押収されていたのだ。
ところが事件当初、ソ連の最高指導者、フルシチョフはこの事実をあえて隠していた。
そうとも知らずアイゼンハワーは
「気象観測中のNASAのU2が墜落した。パイロットはNASAと契約したロッキード社の従業員なので安否確認したい」と、
政府や軍は無関係だと偽り、フルシチョフへ問い合わせてしまったのだ。
もはやアイゼンハワーの嘘は通用しなかった。
「フルシチョフはU2が自爆装置を備え、パワーズが自殺用の毒針や無音拳銃を携帯しているのはおかしい、
と反論。撮影フィルムまで回収されていたのですから」
U2機撃墜の裏で米ソの息詰まる駆け引きが行われ、アイゼンハワーが次第に追い込まれていく様子を機密文書から西川さんが解き明かしていく。
米歴史家、サミュエル・モリソンは「この危機をワシントンが処理したやり方ほど下手な処理はあるまい」とアイゼンハワーの交渉を酷評したという。