■ホモ・エレクトスの発見は南アで初、しかも200万年前と最古
2015年の冬、オーストラリアのラ・トローブ大学の学生ジェシー・マーティン氏とアンジェリーン・リース氏は、岩石の中からヒヒの骨らしき化石を取り出す作業をしていた。彼らは南アフリカのヨハネスブルクの北西に位置するドリモーレン採石場で化石の採集調査を行う遠征隊のメンバーだった。頭骨の破片をクリーニングして組み合わせてみると、ヒヒではなく若い初期人類ホモ・エレクトスのものであることがわかった。南アフリカでホモ・エレクトスの骨が見つかったのは初めてだ。
マーティン氏は当時を回想し、「私たちはこのことを指導教官たちに報告しましたが、彼らは自分の目で見るまで信じていなかったと思います」と話す。
今回、この頭骨と、同じ場所で見つかった別の種の初期人類パラントロプス・ロブストスの頭骨についての分析結果が、4月3日付け科学誌『サイエンス』に掲載された。2種の頭骨について数種類の方法で年代測定を行ったところ、いずれもほぼ同じ年代のものという結果が出た。約200万年前だ。論文共著者となったマーティン氏とリース氏は、この推定が正しいなら、2つの化石はそれぞれの種の最古の化石だと話す。
「ホモ・エレクトスの化石については、アフリカで最古、ひいては世界最古である可能性が高いと思います」と、南アフリカのウィットウォーターズランド大学の古人類学者で、ナショナル ジオグラフィック協会の「エクスプローラー・アット・ラージ」でもあるリー・バーガー氏は話す。同氏は今回の研究には関わっていない。
■ホモ・エレクトスの起源の謎
意外だったのはホモ・エレクトスの頭骨の年代だ。これまで、ホモ・エレクトス誕生の地はアフリカ東部とする考えが主流だった。いくつかの若いホモ・エレクトスの化石や、古いヒト属(ホモ属)のものと思われる化石が発見されているからだ。一方で、ホモ・エレクトスの起源はアフリカの外にあると主張する研究者もいる。最古のホモ・エレクトスの化石がジョージアのドマニシ遺跡で見つかっていたためだ。
しかし今回の発見で、ホモ・エレクトスの起源がアジアにある可能性は非常に低くなったとマーティン氏は話す。「理由の1つは、南アフリカから最古のホモ・エレクトスの化石が出たことです。さらに言うと、アジアではホモ・エレクトスの祖先と考えられる化石が見つかっていません。ホモ・エレクトスが見つかった遺跡をどんなに深く掘っても、それより古いヒト族の化石がみつからないのです」
もちろん、最古の頭骨が見つかったからといって、南アフリカがホモ・エレクトス誕生の地と決まったわけではない。マーティン氏は、「現時点で得られている証拠から考えると、私たちがまだ調べていないアフリカのどこかが起源なのだと思います」と話す。
「新しい化石をホモ・エレクトスと見るのは理にかなっています」と、スイスのチューリヒ大学の古人類学者マルシア・ポンセ・デ・レオン氏は話す。氏は今回の研究には関与していないが、2013年の研究で、ジョージアのドマニシ遺跡で見つかった180万年前のヒト族の頭骨について、アフリカを出た、最も初期のホモ・エレクトスのものだと主張している。
ホモ・エレクトスは大陸から大陸へと移動しながら新しい環境に適応し続けた。ポンセ・デ・レオン氏は、「すべての種のすべての集団は、行く先々で進化を続けます」と話す。ホモ・エレクトスが広く拡散し、適応した過程を追うことは、私たちの祖先がどのように生き延びてきたかを解明するのに役立つだろう。
「これは人類初のグローバル化実験だったと言えます」とマーティン氏。
続きはソースで
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/040600217/