月やその先の星に宇宙飛行士を送り込むためにNASAが開発中の巨大複合型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の初めての打ち上げは、どうやらまだ実現しそうにない。フロリダ州のケネディ宇宙センターで2022年9月3日(米国時間)に予定されていた打ち上げが、追加の修理とトラブル対応のために延期されたのだ。
今回の延期は、発射台での打ち上げ準備中に発見された液体水素の漏れによるものとされている。修理の詳細は現時点では明らかになっておらず、発射台上で済むものなのか、それともスペースシャトル組立棟まで戻す必要があるのかも不明だ。いずれにせよ月探査計画「アルテミス」の始動が遅れることは確実で、9月末にある次の打ち上げ期間、または10月末にあるその次の打ち上げ期間までずれ込むことになった。
この無人宇宙船は、月周回軌道を飛行して地球に帰還する計画だったが、今回の延期は極めて重大なものとなっている。アポロ計画以降で初めて宇宙飛行士を月へ送り込む計画の前段階となるだけに、なおさらだろう。
NASAのビル・ネルソン長官は、打ち上げ中止後に実施したライブストリーミング配信で「わたしたちは4人の人間を宇宙船に搭乗させる前に、確実に動作するよう確かめているのです」と語っている。またネルソンは、宇宙開発においてこうした困難はつきものであり、特に新型の宇宙船ではなおさらであるとも付け加えた。「今回のことは、わたしたちの計画ではもともと想定されていたことです。打ち上げ中止は覚悟していました」
計画通りにならなかった理由
今回の問題は、液体水素燃料をSLSロケットのコアステージに充填するラインで漏れがあり、引火の危険性があることが発端となった。
チームは8月29日に打ち上げを延期した際にも小規模の漏れを発見していたが、今回のものは「対処できる規模の漏れではなかった」と、アルテミスのミッションマネージャーであるマイク・サラフィンは3日の記者会見で説明している。「チームはこの問題を解決しようと3回にわたって試みましたが、3回とも大きな漏れを確認したのです」
機能にこそ多少の差異はあるにしても、NASAはアルテミス計画の全体を通してSLSロケットの設計を採用する予定でいる。その頂点に位置するのが、カプセル型の宇宙船「オリオン」だ。
SLSはボーイングやノースロップ・グラマン、エアロジェット・ロケットダインが委託を受けて生産したが、すでに過酷な試練を乗り越えてきた。開発中はさまざまな遅れや予算超過に見舞われ、一時は失敗に終わるかに思われたのだ。
カウントダウンの練習とテストを含む4月の「ウェット・ドレス・リハーサル」では、燃料の注入とカウントダウンシーケンスの予行演習まで進んだが、のちにロケットは修理に戻されている。6月のテストでは推進剤を満タンまで充填し、打ち上げ29秒前までのカウントダウン演習まで至ったが、今度はヘリウム逆止弁の不具合と液体水素の漏洩が見つかった。
これらの修理を経て、ロケットは8月18日に発射台に戻された。そして4日後にSLSが飛行準備審査を通過したとNASAのチームが発表し、最初の打ち上げが8月29日に決まったのである。
ところが、29日の打ち上げも計画通りには進まなかった。コアステージに推進剤を充填する際に、右側の固体ロケットブースターの隣にあるエンジンのひとつである、3番目の「RS-25」エンジンに問題があることに、NASAのエンジニアが気付いたのだ。
このときはエンジン室への液体水素の流入が正常に進まず、推進剤が適温範囲になかった(この問題は、「水素キックスタート試験」と呼ばれる6月のウェット・ドレス・リハーサルでもチェック項目に含まれていたが、そのときは液体水素が漏れていたことで試験を実施できなかった)。エンジニアチームは、ロケット外側の断熱材に亀裂があることも発見したが、これは大きなリスクにはならないと判断している。
29日に打ち上げを試みた際には、NASAのエンジニアチームは予定時刻の40分前でカウントダウンを停止し、1時間以上にわたってトラブルシューティングを実施した。しかし、最終的に発射ディレクターのチャーリー・ブラックウェル=トンプソンが打ち上げの中止を決定した。
アルテミスチームのメンバーによると、エンジンに異常があるように見えたのは、実際には温度センサーの不具合のせいだったかもしれないという。「温度センサーの反応は物理的な状況とは一致していませんでした」と、SLSのプログラムマネージャーであるジョン・ハニーカットは翌日の記者会見で説明している。
※続きは元ソースで御覧ください
WIRED 2022.09.05
https://wired.jp/article/nasas-giant-moon-bound-rocket-is-grounded-for-repairs/
今回の延期は、発射台での打ち上げ準備中に発見された液体水素の漏れによるものとされている。修理の詳細は現時点では明らかになっておらず、発射台上で済むものなのか、それともスペースシャトル組立棟まで戻す必要があるのかも不明だ。いずれにせよ月探査計画「アルテミス」の始動が遅れることは確実で、9月末にある次の打ち上げ期間、または10月末にあるその次の打ち上げ期間までずれ込むことになった。
この無人宇宙船は、月周回軌道を飛行して地球に帰還する計画だったが、今回の延期は極めて重大なものとなっている。アポロ計画以降で初めて宇宙飛行士を月へ送り込む計画の前段階となるだけに、なおさらだろう。
NASAのビル・ネルソン長官は、打ち上げ中止後に実施したライブストリーミング配信で「わたしたちは4人の人間を宇宙船に搭乗させる前に、確実に動作するよう確かめているのです」と語っている。またネルソンは、宇宙開発においてこうした困難はつきものであり、特に新型の宇宙船ではなおさらであるとも付け加えた。「今回のことは、わたしたちの計画ではもともと想定されていたことです。打ち上げ中止は覚悟していました」
計画通りにならなかった理由
今回の問題は、液体水素燃料をSLSロケットのコアステージに充填するラインで漏れがあり、引火の危険性があることが発端となった。
チームは8月29日に打ち上げを延期した際にも小規模の漏れを発見していたが、今回のものは「対処できる規模の漏れではなかった」と、アルテミスのミッションマネージャーであるマイク・サラフィンは3日の記者会見で説明している。「チームはこの問題を解決しようと3回にわたって試みましたが、3回とも大きな漏れを確認したのです」
機能にこそ多少の差異はあるにしても、NASAはアルテミス計画の全体を通してSLSロケットの設計を採用する予定でいる。その頂点に位置するのが、カプセル型の宇宙船「オリオン」だ。
SLSはボーイングやノースロップ・グラマン、エアロジェット・ロケットダインが委託を受けて生産したが、すでに過酷な試練を乗り越えてきた。開発中はさまざまな遅れや予算超過に見舞われ、一時は失敗に終わるかに思われたのだ。
カウントダウンの練習とテストを含む4月の「ウェット・ドレス・リハーサル」では、燃料の注入とカウントダウンシーケンスの予行演習まで進んだが、のちにロケットは修理に戻されている。6月のテストでは推進剤を満タンまで充填し、打ち上げ29秒前までのカウントダウン演習まで至ったが、今度はヘリウム逆止弁の不具合と液体水素の漏洩が見つかった。
これらの修理を経て、ロケットは8月18日に発射台に戻された。そして4日後にSLSが飛行準備審査を通過したとNASAのチームが発表し、最初の打ち上げが8月29日に決まったのである。
ところが、29日の打ち上げも計画通りには進まなかった。コアステージに推進剤を充填する際に、右側の固体ロケットブースターの隣にあるエンジンのひとつである、3番目の「RS-25」エンジンに問題があることに、NASAのエンジニアが気付いたのだ。
このときはエンジン室への液体水素の流入が正常に進まず、推進剤が適温範囲になかった(この問題は、「水素キックスタート試験」と呼ばれる6月のウェット・ドレス・リハーサルでもチェック項目に含まれていたが、そのときは液体水素が漏れていたことで試験を実施できなかった)。エンジニアチームは、ロケット外側の断熱材に亀裂があることも発見したが、これは大きなリスクにはならないと判断している。
29日に打ち上げを試みた際には、NASAのエンジニアチームは予定時刻の40分前でカウントダウンを停止し、1時間以上にわたってトラブルシューティングを実施した。しかし、最終的に発射ディレクターのチャーリー・ブラックウェル=トンプソンが打ち上げの中止を決定した。
アルテミスチームのメンバーによると、エンジンに異常があるように見えたのは、実際には温度センサーの不具合のせいだったかもしれないという。「温度センサーの反応は物理的な状況とは一致していませんでした」と、SLSのプログラムマネージャーであるジョン・ハニーカットは翌日の記者会見で説明している。
※続きは元ソースで御覧ください
WIRED 2022.09.05
https://wired.jp/article/nasas-giant-moon-bound-rocket-is-grounded-for-repairs/