「悪人」を見つけ、こらしめる。そんな小池百合子都知事の政治手法を、読売新聞はコラムで「越後屋政治」と解説している。越後屋と密談する悪代官。そうした関係を白日のもとにさらし、攻撃を受ければ世論を味方に反撃する。読売は「敵をつくって戦うだけでは問題は解決しない」と小池氏に忠告しているが、はたしてそうか――。
「稲田失言」は圧勝の主因とはいえない
今回は小池百合子都知事の敵を必ず倒す“強さ”を書かせていただく。
自分を攻撃してくる相手を悪人に仕立て上げ、世論を味方に付けて反撃する。彼女はそれがとてもうまい。数年前、直接会って話を聞いたときから、この沙鴎一歩(さおう・いっぽ)はそう感じていた。
今回の都議選だけではなく、防衛事務次官だった守屋武昌氏との戦い、自民党東京都連会長だった石原伸晃氏との対立もそうである。
しかし新聞各紙の社説は、「1強」の安倍政権の驕(おご)りや弛(たる)み、それに加計学園問題、稲田朋美防衛相の失言が、小池氏の「都民ファーストの会」が圧勝した主因のように解説している。それは読みが浅い。
小池氏の政治手法は「越後屋政治」
繰り返すが、小池氏は攻撃してくる輩を悪人にして反撃する。ここに彼女の強さの1つがある。こう思っていたら、同じようなことを考えている先輩記者がいた。
7月8日の読売新聞。特別編集委員の橋本五郎氏が自身のコラム「五郎ワールド」で、小池氏の政治手法を「越後屋政治」と評しているのだ。
今回は、この橋本氏のコラムを手がかりに、小池氏という政治家を分析してみたい。
橋本氏はコラムで、「ここではあえて小池さんの高い支持率とその陥穽について考えてみたいと思います」と前置きする。
陥穽とは「かんせい」と読み、その意味は落とし穴である。「高い支持率」はいいとして「陥穽」について、読者は「何を言いたいのか」と疑問に感じるはずだ。この辺も頭の片隅に入れておこう。
ライバルを時代劇の「悪い商人」に仕立てる
さらに橋本氏はこう続ける。
「小池人気の最も大きな源泉は政治手法にあって、それをひと言で表現すれば、『越後屋政治』というのが私の見方です。勧善懲悪の時代劇を見ていると、欠くべからざるキャラクターとして悪代官が登場します。その側(そば)には悪い商人がいます」
「世の越後屋さんには甚だ申し訳ないことですが、商人はどういうわけか『越後屋』という屋号です。2人は料理屋の薄暗い2階で密談しています。悪代官はニヤリとしながら言います。『越後屋、お主も悪よのう』」
よくテレビの時代劇で見る場面である。それをコラムで引用して「越後屋政治」なるものを読者に分かりやすく説明し、語りかけていく。さすが読売の大記者といわれる橋本氏だ。
そのうえで橋本氏は「小池さんは『越後屋』をつくるのが実にうまいのです。自分に反対する人を『越後屋』に仕立てて攻撃します」と書く。ここまで書かれると、読者はすっかり橋本ワールドに引き込まれてしまうだろう。
1号は内田茂氏、2号は森喜朗元首相
橋本氏によると、小池氏によって越後屋「第1号」にされたのが、都議会のドンこと自民党の内田茂前都連幹事長。2号、3号はというと、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗元首相。それに石原慎太郎元都知事である。
橋本氏は「越後屋政治」について「小池人気を解くひとつの鍵に過ぎない」と指摘する。そのうえでコラムの後半では「これからは都民、国民の目も一段と厳しくなることを覚悟しなければなりません」と小池氏に忠告する。
敵をつくってこらしめるという「越後屋政治」では、次々と敵を作り続けなければいけない。つまり橋本氏のいう「陥穽」とは、「敵をつくって戦うだけでは問題は解決しない」ということだ。コラムの見出しを眺めると、「『越後屋政治』に決別を」となっている。「決別」とは、ずいぶん強い批判である。
確かに橋本氏の指摘するような側面はある。しかし先輩記者の橋本氏には申し訳ないが、小池百合子という政治家は並みの政治家ではない。「越後屋政治」をやるには卓越した演出力が必要だ。小池氏はどんなところでも、敵を見つけ、その敵から一時的に攻撃を受け、そして最後には勝つという力を持っている。ここが橋本氏とは大きく意見が分かれるところだ。
「稲田失言」は圧勝の主因とはいえない
今回は小池百合子都知事の敵を必ず倒す“強さ”を書かせていただく。
自分を攻撃してくる相手を悪人に仕立て上げ、世論を味方に付けて反撃する。彼女はそれがとてもうまい。数年前、直接会って話を聞いたときから、この沙鴎一歩(さおう・いっぽ)はそう感じていた。
今回の都議選だけではなく、防衛事務次官だった守屋武昌氏との戦い、自民党東京都連会長だった石原伸晃氏との対立もそうである。
しかし新聞各紙の社説は、「1強」の安倍政権の驕(おご)りや弛(たる)み、それに加計学園問題、稲田朋美防衛相の失言が、小池氏の「都民ファーストの会」が圧勝した主因のように解説している。それは読みが浅い。
小池氏の政治手法は「越後屋政治」
繰り返すが、小池氏は攻撃してくる輩を悪人にして反撃する。ここに彼女の強さの1つがある。こう思っていたら、同じようなことを考えている先輩記者がいた。
7月8日の読売新聞。特別編集委員の橋本五郎氏が自身のコラム「五郎ワールド」で、小池氏の政治手法を「越後屋政治」と評しているのだ。
今回は、この橋本氏のコラムを手がかりに、小池氏という政治家を分析してみたい。
橋本氏はコラムで、「ここではあえて小池さんの高い支持率とその陥穽について考えてみたいと思います」と前置きする。
陥穽とは「かんせい」と読み、その意味は落とし穴である。「高い支持率」はいいとして「陥穽」について、読者は「何を言いたいのか」と疑問に感じるはずだ。この辺も頭の片隅に入れておこう。
ライバルを時代劇の「悪い商人」に仕立てる
さらに橋本氏はこう続ける。
「小池人気の最も大きな源泉は政治手法にあって、それをひと言で表現すれば、『越後屋政治』というのが私の見方です。勧善懲悪の時代劇を見ていると、欠くべからざるキャラクターとして悪代官が登場します。その側(そば)には悪い商人がいます」
「世の越後屋さんには甚だ申し訳ないことですが、商人はどういうわけか『越後屋』という屋号です。2人は料理屋の薄暗い2階で密談しています。悪代官はニヤリとしながら言います。『越後屋、お主も悪よのう』」
よくテレビの時代劇で見る場面である。それをコラムで引用して「越後屋政治」なるものを読者に分かりやすく説明し、語りかけていく。さすが読売の大記者といわれる橋本氏だ。
そのうえで橋本氏は「小池さんは『越後屋』をつくるのが実にうまいのです。自分に反対する人を『越後屋』に仕立てて攻撃します」と書く。ここまで書かれると、読者はすっかり橋本ワールドに引き込まれてしまうだろう。
1号は内田茂氏、2号は森喜朗元首相
橋本氏によると、小池氏によって越後屋「第1号」にされたのが、都議会のドンこと自民党の内田茂前都連幹事長。2号、3号はというと、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗元首相。それに石原慎太郎元都知事である。
橋本氏は「越後屋政治」について「小池人気を解くひとつの鍵に過ぎない」と指摘する。そのうえでコラムの後半では「これからは都民、国民の目も一段と厳しくなることを覚悟しなければなりません」と小池氏に忠告する。
敵をつくってこらしめるという「越後屋政治」では、次々と敵を作り続けなければいけない。つまり橋本氏のいう「陥穽」とは、「敵をつくって戦うだけでは問題は解決しない」ということだ。コラムの見出しを眺めると、「『越後屋政治』に決別を」となっている。「決別」とは、ずいぶん強い批判である。
確かに橋本氏の指摘するような側面はある。しかし先輩記者の橋本氏には申し訳ないが、小池百合子という政治家は並みの政治家ではない。「越後屋政治」をやるには卓越した演出力が必要だ。小池氏はどんなところでも、敵を見つけ、その敵から一時的に攻撃を受け、そして最後には勝つという力を持っている。ここが橋本氏とは大きく意見が分かれるところだ。