毎日新聞2018年2月22日 19時30分
https://mainichi.jp/articles/20180223/k00/00m/040/076000c
投稿履歴「首相答弁にそった改変側と阻止側の“編集合戦”」
一定のルールのもとで誰でも自由に編集できるインターネット百科事典「ウィキペディア」で、生活水準を測る指標の一つとしてなじみ深い「エンゲル係数」のページが凍結され、編集できない状態となっている。投稿履歴をたどると、係数上昇の理由について安倍晋三首相が国会で答弁した直後、これに合わせて内容を改変しようとする側と阻止を試みる側の“編集合戦”が過熱していた。【和田浩幸】
「エンゲル係数」は中学校で習う経済指標だ。家計の消費支出総額に占める食料費の割合で<一般に値が高いほど生活水準は低い>とされる。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の係数は2005年に22.9%で底を打ち、その後は横ばいが続く。第2次安倍政権以降は13年(23.6%)に上昇に転じ、16年(25.8%)まで4年連続で上昇。17年も25.7%と高止まりしている。
「これは物価変動のほか食生活や生活スタイルの変化が含まれている」。1月31日の参院予算委員会で、野党の「生活が苦しくなっている」との指摘に、首相はそう反論した。
突然、ウィキペディアが書き換えられたのは翌2月1日午前1時過ぎ。昨年10月の直近更新時は冒頭の太字部分を含む簡潔な説明だった。これが<現在では(係数の)重要度が下がっている>などと首相答弁を踏まえた内容に改変。経済小説が出典とされた。
他のユーザーが<小説をソースに書かれることではない>と、すぐにこれを削除。今度は別の人物が<昨今では核家族や一人暮らしが増えて中食(なかしょく=弁当や総菜など)が増え、一概に値が高いほど生活水準は低いとは言えない>などと応戦。<外食は交際費や遊興娯楽費などに該当するので食費には入らない>と虚偽の書き込みをしたが、これも削除された。“編集合戦”は朝まで19回続いた。
ニッセイ基礎研究所の櫨(はじ)浩一専務理事は「ここ数年の上昇は、所得が伸びない中で食品値上げの影響が大きく、生活が苦しくなったと見ることができる。高齢者や共働き世帯が増え、外食や中食が食費を押し上げているのは長期的要因だ」と分析。「今は食費以外に光熱費や医療費など不可欠の支出も多いが、所得上昇でエンゲル係数が下がるのは明らかだ。生活に密着した指標として今も重要な意味がある」と話し、<重要度が下がっている>などの改変内容を否定した。
神戸女学院大名誉教授の内田樹さんは言う。「事実が書き換えられると対話が成立せず、社会全体の知性が腐る。ファクトチェックに労力がかかり必要な政策議論も始まらない。道徳上の問題というより経済合理性を欠くと言うべきだ」
https://mainichi.jp/articles/20180223/k00/00m/040/076000c
投稿履歴「首相答弁にそった改変側と阻止側の“編集合戦”」
一定のルールのもとで誰でも自由に編集できるインターネット百科事典「ウィキペディア」で、生活水準を測る指標の一つとしてなじみ深い「エンゲル係数」のページが凍結され、編集できない状態となっている。投稿履歴をたどると、係数上昇の理由について安倍晋三首相が国会で答弁した直後、これに合わせて内容を改変しようとする側と阻止を試みる側の“編集合戦”が過熱していた。【和田浩幸】
「エンゲル係数」は中学校で習う経済指標だ。家計の消費支出総額に占める食料費の割合で<一般に値が高いほど生活水準は低い>とされる。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の係数は2005年に22.9%で底を打ち、その後は横ばいが続く。第2次安倍政権以降は13年(23.6%)に上昇に転じ、16年(25.8%)まで4年連続で上昇。17年も25.7%と高止まりしている。
「これは物価変動のほか食生活や生活スタイルの変化が含まれている」。1月31日の参院予算委員会で、野党の「生活が苦しくなっている」との指摘に、首相はそう反論した。
突然、ウィキペディアが書き換えられたのは翌2月1日午前1時過ぎ。昨年10月の直近更新時は冒頭の太字部分を含む簡潔な説明だった。これが<現在では(係数の)重要度が下がっている>などと首相答弁を踏まえた内容に改変。経済小説が出典とされた。
他のユーザーが<小説をソースに書かれることではない>と、すぐにこれを削除。今度は別の人物が<昨今では核家族や一人暮らしが増えて中食(なかしょく=弁当や総菜など)が増え、一概に値が高いほど生活水準は低いとは言えない>などと応戦。<外食は交際費や遊興娯楽費などに該当するので食費には入らない>と虚偽の書き込みをしたが、これも削除された。“編集合戦”は朝まで19回続いた。
ニッセイ基礎研究所の櫨(はじ)浩一専務理事は「ここ数年の上昇は、所得が伸びない中で食品値上げの影響が大きく、生活が苦しくなったと見ることができる。高齢者や共働き世帯が増え、外食や中食が食費を押し上げているのは長期的要因だ」と分析。「今は食費以外に光熱費や医療費など不可欠の支出も多いが、所得上昇でエンゲル係数が下がるのは明らかだ。生活に密着した指標として今も重要な意味がある」と話し、<重要度が下がっている>などの改変内容を否定した。
神戸女学院大名誉教授の内田樹さんは言う。「事実が書き換えられると対話が成立せず、社会全体の知性が腐る。ファクトチェックに労力がかかり必要な政策議論も始まらない。道徳上の問題というより経済合理性を欠くと言うべきだ」