まず、最初に【図版1】に掲載したグラフを見ていただきたい。実は、このグラフは、今からおよそ1年前、2018年2月12日の本コラムでも紹介したグラフだ。
安倍政権が誕生した後2012年から17年にかけて、実質賃金が暦年で見てどのように変化したかを示すグラフである。これは、18年2月の「厚生労働省の記者発表」のグラフを使用したもので、今回の不正とは関係なく、以前から使われていた。
これを見れば、実質賃金は安倍政権になってから、16年を除いて一貫して下がっていることがわかる。今頃、「アベノミクスで賃金が下がっていた!」と騒いでいるのは、何とも不思議な気がするのである。
■「18年もマイナス?」は不正発覚前からわかっていた
さらに、今焦点となっている18年についても、同様のことが言える。
【図版2】の表に並べた3段の数字を見ていただきたい。
まず、「参考値」とは何かを解説しておこう。18年から、厚労省は、毎勤統計の調査対象事業所のうち、ほぼ半数を入れ替えたのだが、新たに入ってきた事業所の給料の方が今までの事業所よりもかなり高いという結果になった。そのため、18年の数字は17年の数字よりも全体の平均では高めに出る。一方、調査している半分の事業所は17年も対象になっていたのだから、この17〜18年の間継続して調査している事業所だけで17年と18年の給与を比較することも可能だ。そちらの方が、給与の増減の傾向を知るためにはむしろ適しているということは素人でもわかる。
そこで、厚労省は、その数字を「参考値」として発表していた。ただし、厚労省の発表資料には名目賃金の参考値は書いてあるが、消費者物価上昇分を差し引いた「実質賃金」の参考値は出していなかった。このため、実質賃金の実態はどうなのかがわかりにくくなっていたのだ。しかし、名目値から物価上昇分を差し引けば、簡易的に実質値を出すことはできる。
そのやり方で、簡易的に数字を作ってみたのが、この表だ。
上段の名目賃金の伸び率の参考値から中段の消費者物価の伸び率を引いたものを下段に実質賃金の伸び率として記載してある。
これを見ると、月別に見て、実質賃金(下段)がプラスになっているのは、3月、6月、11月の3回だけで、他の8カ月はマイナスである。普通に見ると、18年全体の平均ではマイナスになりそうだ(12月はボーナス月なので、ウェイトが高く、ここで非常に高い伸びが出ればプラスになる可能性も排除はできないが)。
最近になって、厚労省が新たに出した参考値を基にして、野党が試算した結果では、11カ月のうちプラスは6月の1回だけ、横ばいが11月の1回で、あとはマイナスだったと報じられているが(朝日新聞2月1日付朝刊)、不正発覚前に数字を用いた上記の結果と傾向として大きな違いはない。
これらのグラフと表から何が見て取れるか。
17年まで4%以上実質賃金が下がっていて、18年もマイナスの可能性が高い。19年はどうかと言えば、10月に2%消費税率を上がれば、物価が普通の年よりも上がるので、19年も実質賃金は下がるか、上がっても微増だろう。だとすると、21年までの安倍総理の任期中に、4%の減少分を取り返すには20年以降、驚異的な賃金の伸びが必要で、12年の民主党政権時代の実質賃金に戻すことはほぼ不可能だという見通しが出て来る。
これだけでも、アベノミクスをさらに続けるという安倍総理に対して、政策変更を迫る格好の根拠になるはずだ。
2につづく
AERA.dot
2019/2/4 07:00
https://dot.asahi.com/dot/2019020300013.html