政府は北方領土問題を含むロシアとの平和条約締結交渉について、プーチン大統領が来日する際の6月の首脳会談で目指していた大筋合意を見送る方針を固めた。北方領土の歴史や主権を巡る認識の隔たりが大きく、領土問題解決に向けた具体的な交渉に入ることができていないからだ。政府は北方四島での共同経済活動の進展などでロシアとの信頼醸成を図って状況を打開したい考えだが、交渉の長期化は確実だ。複数の政府関係者が17日、明らかにした。
菅義偉官房長官は17日の記者会見で、6月の大筋合意の見通しについて聞かれ、「交渉以外の場で発言することは交渉に悪影響を与える」と明言を避けた。一方で、「安倍晋三首相とプーチン大統領は領土問題を次の世代に先送りすることなく自らの手で必ず終止符を打つとの強い意思を共有している」と述べ、交渉を進める意向を強調した。ただ、ロシアは強硬姿勢のままで、残る2カ月で領土問題で進展が得られる見通しはない。政府高官は「6月の大筋合意を断念していないが、事実上難しくなった」と困難なことを認めた。
両首脳は昨年11月の首脳会談で、「平和条約締結後、歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意した。日本政府は歯舞、色丹の2島の返還と国後、択捉両島での共同経済活動などを組み合わせた「2島プラスアルファ」での決着を探る方針を固め、6月に大阪市で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議出席のため来日するプーチン氏と大筋合意するシナリオを描いていた。
しかし、1月の首脳会談ではプーチン氏が「(条約締結の)環境作りに向け、長く地道な作業がある」と交渉長期化を示唆。交渉責任者の河野太郎外相とラブロフ外相が1、2月に開いた外相会談では、ラブロフ氏は、ロシアが第二次世界大戦の結果として北方領土を合法的に手に入れたとする歴史認識と「ロシアの主権」を受け入れるよう迫った。北方領土を「日本固有の領土」とする日本側が受け入れることは困難で、双方の隔たりが目立つ形となっていた。
日露両政府は、河野、ラブロフ両外相の会談を大型連休後の5月中旬にもロシアで開く調整に入った。しかし、政府関係者は「領土を引き渡すことに対するロシア国内の反発は強く、ロシア側も交渉を前進させるのは難しい状況となった」と述べ、ロシア側が世論を背景に態度を硬化させたため交渉前進が難しい状況だと解説した。
日本政府は当面、共同経済活動や元島民の墓参などの協議も進めて改めて信頼醸成を図りながら、北方領土を巡る交渉の糸口を探る方針だ。【高山祐、古川宗】
毎日新聞
4/18(木) 3:00配信
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