世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題で、政府が対策の切り札と位置付ける被害者救済のための新法の概要をまとめた。今国会への提出、成立を目指すが、マインドコントロール(洗脳)状態で行った寄付をまとめて取り消せる規定は設けず、家族への返金も限定的にとどまる見通しで、専門家は実効性を疑問視する。野党は与党に対し、抜本的な見直しを働き掛ける方針だ。(佐藤裕介、市川千晴、曽田晋太郎)
訪問先のタイ・バンコクで19日に記者会見した岸田文雄首相は「与野党の意見も参考にしつつ、できるだけ早期に今国会に提出したい」と述べた。
18日の与野党幹事長会談で示された政府資料によると、新法には宗教団体などが寄付を求める際の禁止行為を列記。「霊感」などを用いて不安をあおったり、不安に乗じたりした上、重大な不利益を避けるには「寄付が必要不可欠」と告げた場合、最長10年後まで取り消しができるとした。
だが、旧統一教会を巡っては、正体を隠して近づくなどの悪質な勧誘でマインドコントロールされた信者が、その後は自発的に寄付を続け、破産や家庭崩壊に追い込まれるケースが指摘されている。政府案では、禁止行為を伴わない寄付が適法となりかねず、被害の一部しか取り戻せない可能性がある。立憲民主党の岡田克也幹事長は「進んで寄付することがカバーされないなら、ほとんど意味がない」と強調し、与党側に修正を求める考えを示す。
配偶者や「宗教2世」と呼ばれる子どもら、家族が代わって寄付を取り消すことも認めるが、対象は民法が定める「扶養を受ける権利」などの範囲内に限られる。憲法の財産権保障を踏まえ、お金の使い道を決めるのは本人だという考え方に重きを置いているためだが、「1億円の被害に遭っても、取り戻せるのは月数万円」(立民の長妻昭政調会長)という見方もあり、本格的な救済にはつながらない恐れがある。
与党内には権利行使の要件として、信者のもとにお金がない「無資力」を盛り込む意見もある。野党のベテラン議員は「身ぐるみをはがされないと使えない代物だ」と批判する。
政府案は、収入や資産に見合わない高額な寄付を防止する上限規制の導入も見送った。代わりに宗教団体などが借金や自宅売却を要求することを禁じるものの、宝石など高価な私物や居住していない建物の処分で寄付金を調達させることはでき、「抜け道」は残る。
全国霊感商法対策弁護士連絡会の紀藤正樹弁護士は取材に「政府案では本人が寄付を取り消せる要件が狭く、家族に返ってくるお金も明らかに少ない。十分な救済ができない」と話した。
東京新聞
2022年11月20日 06時00分
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