【森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記】
赤木雅子さんは憂鬱だった。財務省の公文書改ざんで死に追い込まれた近畿財務局職員、赤木俊夫さんの妻。真実を知るため、国と、改ざんを決定づけた当時の財務省理財局長、佐川宣寿氏を相手に裁判を起こした。国は相手の請求を丸呑みする“認諾”という手段で裁判から逃げたが、佐川氏との裁判が続いていた。その一審判決が迫り、報道各社から次々に取材要請が舞い込んできた。聞くことは誰しも同じだ。
「判決に何を求めますか?」
「どんなことを期待しますか?」
それに一つ一つ丁寧に答えてきたのだが、雅子さんはどこかで醒めていた。
「だってもう結論は見えてるじゃないの……」
結論=すなわち、判決で訴えが認められることはないし、一番の願いだった真相解明がかなうこともない。それは半年前からわかっている。雅子さんが裁判で求めていた、佐川氏をはじめ財務官僚らの法廷での証言。新たな真実に迫るチャンスだったが、5月の弁論で裁判長から退けられてしまったから。その瞬間、雅子さんの敗訴は決まったようなものだ。
しかし、それを言っては身もふたもない。立場上「いい判決を期待しています」と答えざるを得ない。でも実際は何の期待も持てないまま判決の日が近づいてくる。だいたいマスコミの記者は普段あまり関心を示さないのに、大きな節目が近づいてくると騒ぎがちだ。雅子さんの気分は沈んでいった。
それを振り払ってくれたのが、判決前日の一本の電話だった。TBS「報道特集」の金平茂紀さん。裁判の途中もずっと雅子さんのことを気にかけて、折に触れ番組で取り上げてくれた。判決直前のマスコミの大騒ぎを雅子さんが愚痴ると、金平さんは笑い飛ばした。
「それでいいんだよ。裁判が終わったら、その先は誰も関心を持たなくなるよ。だからこの際、マスコミに大騒ぎして大きく取り上げてもらって、世間の関心をひきつけた方がいいんだ。次につながるからね」
なるほど、それもそうだ。雅子さんはスッキリした。
そして迎えた11月25日、判決当日の朝。雅子さんはビシッとスーツ姿で身を引き締めた。首には夫が使っていたマフラー。巻いていると夫が一緒にいてくれる気がする。
「佐川さんは法律に守られ、夫は守ってもらえなかった」
判決は予想通り「請求を棄却する」。雅子さんの訴えはすべて退けられた。国家公務員が職務上行った行為は国が賠償責任を負い、公務員個人に賠償を求められないという、最高裁判例通りの判断だ。
だがそれは想定の範囲内。判決をじっと聞いていた雅子さんは最後に裁判長に一礼し「ありがとうございました」と述べた。もちろん負けたのは悔しい。でも、この裁判長と会うのはこれが最後だから、という気持ちであいさつした。
判決で雅子さんが最も感じたこと。それは「佐川さんは法律に守られているけど、夫は守ってもらえなかった」ということ。これじゃあ同じことが繰り返されてしまう。それを防ぐためにも真実を知ることが大切なのに。だから控訴にためらいはなかった。実は前日まで迷いに迷っていたが、もう吹っ切れた。
それより引っかかったのは、法廷の被告席に誰もいなかったこと。佐川氏本人だけでなく代理人の弁護士もいない。これには満席の傍聴席から「おかしいんじゃないの」と声が上がった。
法廷に駆けつけていた金平さんは、判決後のインタビューでその点を尋ねた。すると雅子さんは……、
「判決を聞く価値がないと思ってるみたいですよね。残念だし、きちんと聞いてほしかったと思います」
そもそも佐川氏がきちんと真相を説明して謝罪してくれたら、雅子さんが裁判を起こすこともなかったし、控訴する必要もない。でも佐川氏はついに一度も法廷に来なかった。
雅子さんは9月に佐川氏らを新たに虚偽公文書作成罪で東京地検特捜部に告発状を提出している。
「佐川さんは刑事罰を受けるべきだと夫は手記に書き遺しました。検察には告発を受理して取り調べを進めてほしいと思います」
2に続く
日刊ゲンダイ
11/26(土) 11:32配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1478cc4c8590765c948816224c7a7ca8a469c51