緑の庭に囲まれたカルティエ財団の展示室に入ると、中国山東省に建設中の『谷の教会』の巨大模型が、高い天井まで伸びている。庭を背にかけられたカーテン状の布には、那須高原の『水庭』の樹木がプリントされている。これは伐採予定だった隣接の森の木々で、すでに新しい庭に植え替えられたものだ。
その他ここに展示されているのは、計画中のものを含めた20点の石上作品。完成模型と、そこへ至るまでのプロセスを示す試作模型やビデオなどで構成され、彼の“自由な建築”の考え方が具体的に示されている。それぞれの建築のコンセプトを、石上さんが自分の言葉で書いた画用紙もあって、鉛筆の文字がいい感じでとてもわかりやすい。
山東省の湖を横断する計画の文化センターは、長さが1kmもあるし、オランダの自然保護区の森のビジター・センターは、自然の森の景観に配慮して、柱を使わずガラスの壁面だけで造られる。周りの空間を生かし、その意味をさらに広げ、建築空間の中に風景を創りだすことを、石上さんは常に意識しているという。
コペンハーゲンの海辺に計画されている『平和の家』は、海の上に白い雲が浮かんでいるような建築。中国雲南省大理市の別荘計画は、急速な開発で失われつつある石が並ぶ景観を、そのまま家の中に取り込んでしまうという設計だ。
意表をつかれるようなそれらの発想の中でもユニークなのが、山口県宇部市のレストランと住居の建築だ。出された条件は、まず絶対に壊れないこと、そして老舗のような重厚な建物というもの。例えばレンガで造っても、テーマパーク風の白々しいものになってしまう。完成時から年月を経てきたような建物を実現するためにたどり着いたのが、地面に穴を掘ってコンクリートを流し込み、構造体を造るという工法。土を掻き落とすと、土が染み付いたコンクリートが長い間に自然にできたと同じような風合いのある壁や柱になっている。
今の建築は分業化されていて、すべて予定通りに進めて次の工程に回すのが基本。しかし、穴が崩れたりといった予測できないことが多いこの建設では、掘ることから仕上げまでの全工程を、数人の「多能工(マルチスキル)と呼ばれる人たちが作業することで完成させた。
こうした、今の“建築の常識”を破る建築物を造る一方で、モスクワの科学技術博物館の改装では、新しい建物を付加するのをあえて避け、歴史的な建物の廃墟化した地下室を修復して展示室に変える作業が続いている。
秋田では、民家の廃屋を集めて組み直し、一棟の認知症高齢者施設にする試み。そして、中国山東省に計画中の幼稚園では、園舎と広い園庭の施設や遊具を一体とした設計が進められている。この幼稚園の方針は、子どもたちに生活の大半を屋外で過ごさせること。石上さんはこれらの施設を、子どもの目線、スケールで作ろうとしている。模型をよく見ると、子どもたちがわくわくしそうな配慮が各所に施されているのがわかる。
次々と建てられる今の建築物を見ると、建物の機能や構造とは関わりない表面的なカタチで自己主張するものが少なくない。これに対して石上建築は、それぞれの建物の環境や歴史、目的からアプローチして、それぞれ異なる結果を生み出している。この展覧会のテーマの“自由な建築”とは、「今の多様な人々の多様な価値観に対して、建築の常識や規範からもっと自由にならなければ」という石上さんの主張の表れなのだ。まれにみる面白い展覧会です。
ovni 2018/04/20
https://ovninavi.com/junya_ishigami_expo_freeing_architecture/
その他ここに展示されているのは、計画中のものを含めた20点の石上作品。完成模型と、そこへ至るまでのプロセスを示す試作模型やビデオなどで構成され、彼の“自由な建築”の考え方が具体的に示されている。それぞれの建築のコンセプトを、石上さんが自分の言葉で書いた画用紙もあって、鉛筆の文字がいい感じでとてもわかりやすい。
山東省の湖を横断する計画の文化センターは、長さが1kmもあるし、オランダの自然保護区の森のビジター・センターは、自然の森の景観に配慮して、柱を使わずガラスの壁面だけで造られる。周りの空間を生かし、その意味をさらに広げ、建築空間の中に風景を創りだすことを、石上さんは常に意識しているという。
コペンハーゲンの海辺に計画されている『平和の家』は、海の上に白い雲が浮かんでいるような建築。中国雲南省大理市の別荘計画は、急速な開発で失われつつある石が並ぶ景観を、そのまま家の中に取り込んでしまうという設計だ。
意表をつかれるようなそれらの発想の中でもユニークなのが、山口県宇部市のレストランと住居の建築だ。出された条件は、まず絶対に壊れないこと、そして老舗のような重厚な建物というもの。例えばレンガで造っても、テーマパーク風の白々しいものになってしまう。完成時から年月を経てきたような建物を実現するためにたどり着いたのが、地面に穴を掘ってコンクリートを流し込み、構造体を造るという工法。土を掻き落とすと、土が染み付いたコンクリートが長い間に自然にできたと同じような風合いのある壁や柱になっている。
今の建築は分業化されていて、すべて予定通りに進めて次の工程に回すのが基本。しかし、穴が崩れたりといった予測できないことが多いこの建設では、掘ることから仕上げまでの全工程を、数人の「多能工(マルチスキル)と呼ばれる人たちが作業することで完成させた。
こうした、今の“建築の常識”を破る建築物を造る一方で、モスクワの科学技術博物館の改装では、新しい建物を付加するのをあえて避け、歴史的な建物の廃墟化した地下室を修復して展示室に変える作業が続いている。
秋田では、民家の廃屋を集めて組み直し、一棟の認知症高齢者施設にする試み。そして、中国山東省に計画中の幼稚園では、園舎と広い園庭の施設や遊具を一体とした設計が進められている。この幼稚園の方針は、子どもたちに生活の大半を屋外で過ごさせること。石上さんはこれらの施設を、子どもの目線、スケールで作ろうとしている。模型をよく見ると、子どもたちがわくわくしそうな配慮が各所に施されているのがわかる。
次々と建てられる今の建築物を見ると、建物の機能や構造とは関わりない表面的なカタチで自己主張するものが少なくない。これに対して石上建築は、それぞれの建物の環境や歴史、目的からアプローチして、それぞれ異なる結果を生み出している。この展覧会のテーマの“自由な建築”とは、「今の多様な人々の多様な価値観に対して、建築の常識や規範からもっと自由にならなければ」という石上さんの主張の表れなのだ。まれにみる面白い展覧会です。
ovni 2018/04/20
https://ovninavi.com/junya_ishigami_expo_freeing_architecture/